提言:クリーニング業者は化学合成糊の使用をやめ、天然素材の糊を使用しましょう
ワイシャツ化学合成糊の撤廃を
意外な環境破壊物質
今年6月に公布された「プラスチック資源循環促進法」について、政府は8月23日(月)に同法に基づく新制度の具体案として、削減すべき特定プラスチック製品12品目と企業に求める対策を公表しました。その中にはクリーニング店で使用するハンガーと包装のポリ資材も含まれています。
しかし、クリーニングではハンガーや包装材よりも環境を悪くしているものが使用されています。それは、ワイシャツの糊です
廃棄すべき特定プラスチック製品12品目のリスト
ワイシャツ洗いで使用される洗濯糊
クリーニング店が一番たくさんお客様から預かるのがワイシャツ。ワイシャツやシーツなどの白物はクリーニング店ならどこでも洗ってすすいだ後に糊付けをし、濡れたままプレスします。その方がきれいに仕上がるからです。ワイシャツの糊は最初、トウモロコシなどから取れるデンプンが主原料でした。
クリーニングの半分はワイシャツ
戦後、産業が発展するとサラリーマンが増え、ワイシャツのクリーニング需要は急激に増えていきました。昔はアイロンの手作業だけで仕上げましたが、1960年代頃から生産性の高いワイシャツのプレス機が開発され、クリーニング価格も安くなりました。そうするとますます需要は増え、預かり品の中でワイシャツの占める割合は地方でも全体の3割、都会では5,6割になりました。クリーニング店の営業戦略としてワイシャツ価格を安くして顧客を集め、他のスーツ、冬物衣料なども出してもらおうという方法が定着したこともワイシャツが多くなった要因です。
クリーニング店が一番多く預かる品がワイシャツです
クリーニング工場のワイシャツプレス作業風景
ワイシャツ糊の歴史
ワイシャツの糊はトウモロコシ、ジャガイモ、小麦などのデンプンで作られています。昔はどこの業者もワイシャツを洗うときには糊を煮る作業があり、これは主に職人の仕事でした。
1970年代、天然の成分ではない、石油から作った化学合成糊が開発されました。これはお湯でなく水で溶かすだけで使用できるので、誰にでも使用することができ、使い勝手の良さから使用する業者が増えました。
1990年代頃に、化学合成糊は石油から作られていることから身体に悪いといわれ、健康志向の高まりから再び天然糊を使用する業者が増えてきました。この頃になると天然糊を誰でも作れる機械も開発され、再び各業者が天然糊を使用するようになりました。
ところが最近になり、また化学合成糊を使用する業者が増えてきました。資材業者によると、天然糊の使用者は少数派で、市場の8割が化学合成糊を使用しているそうです。水面下で、各業者は化学合成糊ばかり使用していたのです。
化学合成糊は大変な環境破壊!
化学合成糊は身体に悪いといいますが、なめたりしなければ別に問題はありません。しかし問題は海洋汚染にあります。現在、プラスチックによる海洋汚染が大きな問題となっていますが、プラスチックも化学合成糊も同じ石油から作られています。接着剤などと似たような材質です。
化学合成糊は次にまた洗ったとき、成分が溶け出し、最終的には海に流れ着きます。ワイシャツはビジネスマンならみんな何枚も持っていて、クリーニング店がたくさん預かり、高い頻度で洗われていますので、クリーニング工場が化学糊を使用する限り、膨大な量の石油成分が海洋に投棄されていることになります。これは、目に見えるプラスチックよりも始末の悪い問題です。環境破壊を食い止めるため、対策を考えなければなりません。ワイシャツは着る度にクリーニングに出す方がほとんどなので、繰り返しクリーニングを利用し、推定で年間に3億2千万枚分のワイシャツの化学合成糊が海洋に投棄されていることになります。なお、これはワイシャツだけで、シーツ、白衣など糊付けされる製品を含めば、その量はさらに増えます。
クリーニング工場にある水洗機。一度に100枚のワイシャツを洗える。しかし化学合成糊で糊付けされているワイシャツを洗えば、洗っているときに流れ落ちて最後は海に到達する。
ワイシャツは繰り返し何十回も洗われるので、化学合成糊を使用しているクリーニング工場からはそのたびに石油成分が水に溶け出し、最終的には海洋を汚染する。プラスチックの海洋汚染と全く同様な流れ
なぜ今まで問題視されなかったのか
これはまだクリーニング業界で問題視されていませんが、なぜ今まで放置されてきたのでしょうか?クリーニング業法が施行されたのが昭和25年で、クリーニング業界をまとめる生衛法ができたのが昭和32年です。この時代にはまだ化学合成糊は開発されておらず、すべての業者が天然糊を使用していたので、問題は発生しませんでした。ところが社会情勢が変化し、クリーニング市場が大手業者の寡占状態になっても法律自体が全く変わっていないので、こういった変化に政治も行政も気がつかなかったのです。使用している業者も、おそらくはそこまで考えていないでしょう。社会の認識は、洗濯糊はすべて「コーンスターチなどのでんぷん」で変わっておらず、だからこの問題に気付いていないのです。
なぜ化学合成糊を使用する業者が増えたのか
前述のように、1990年代には健康志向の高まりから天然糊を使用する業者が増えたのですが、日本のクリーニング業界は延々と価格競争が続き、手間をかける余裕がなくなっていきました。そうなると、煮詰めて糊を作らなければならない天然糊よりも、水で溶かすだけの化学糊の方が楽で、生産性も上がり、コストが下がります。知らない間に化学糊が多くなったのは、価格競争が大きく関係しています。
日本のクリーニング業界はいまだに建築基準法違反の違法操業をしている業者が多いなどモラル、コンプライアンスの点で問題がありますが、この問題に関しては、現時点で環境破壊をしているものをあえて使用しているという意識はなく、各業者に悪気はないでしょう。しかし、よく考えればわかることなので、これからも化学糊を使用するのは問題であると思います。環境問題がこれだけ取り上げられている中、いまだ化学合成糊を使用する業者は完全に時代遅れです。
クリーニング業者達が化学合成糊を使用する理由はこのようなものです。
〇延々と続く低価格競争によるコスト削減
〇クリーニング業者の環境への配慮のなさ、SDGs意識の低さ
〇クリーニング業者の関心のなさ、知識のなさ
やたら半額の文字が目立つクリーニング店のチラシ。クリーニング業者は半額セールばかり繰り返し、コスト削減、作業の短縮化を考えるので、自然と楽な化学合成糊を選ぶようになる(特定の業者を指すものではありません)
対策はあるか
あります。簡単なことです。各業者が化学合成糊の使用をやめ、天然糊にすればいいのです。そんなに難しいことではありません。やや手間がかかるという問題はありますが、それほどの違いはありません。また、化学糊は接着剤のようなものなので成分が生地に残り、何度もクリーニングに出すと硬化して着心地も悪くなり、生地にも良くありません。化学合成糊を使用していたある業者は、顧客から「エリがすれて痛い」と苦情が多く悩んでいましたが、天然糊に換えたら苦情がなくなったと喜んでいます。
SDGsの時代、海洋汚染を引き起こす業者というのはあまりにイメージが悪い。天然糊ならこの問題がありません。環境にやさしい会社ですと宣伝にもなります。
天然糊は、昔はコーンスターチ、ジャガイモ、小麦など限られていましたが、今は米、サトウキビ、タピオカなどいろいろなものがあります。イメージを上げることもできます。
天然糊を使用する業者がそれを宣伝することにより、化学合成糊を使用する業者がイメージの悪さから使用を控えるようになれば、この問題は解決できます。
タピオカ糊を使用する業者の宣伝ポスター。タピオカはイメージがいい
この問題は一般社会にはほとんど知られておらず、そして閉鎖的なクリーニング業界なのでなかなか認知されないけれど、プラスチックの海洋投棄と全く同様な問題であり、深刻な環境破壊をもたらしている問題です。クリーニング業者が、環境破壊の悪者になってはいけません。なんとかして解決しましょう。
提言:クリーニング業者は化学合成糊の仕様をやめ、天然素材の糊を使用しましょう
SDGsを強く認識しましょう