建築基準法違反15年・・・まだまだ続く違法操業
建築基準法違反15年・・・
まだまだ続く違法操業
2009年に朝日新聞はクリーニング業界大手二社の建築基準法違反を報じた
あらまし
2025年9月11日は、国土交通省が全国のクリーニング所を調査し、建築基準法違反の状況を発表してからちょうど15年に当たる。
この問題は、2009年7月当時業界三位の大手クリーニング会社が朝日新聞など大手マスコミによって組織ぐるみの建築基準法違反が摘発されたことに始まる。記事では商業地域に新設されたクリーニング工場が、行政に虚偽申請して使用禁止の溶剤を使用していたことが書かれていた。
実は建築基準法問題はクリーニング業界全体のタブーで、ほとんどの業者が建築基準法の違反状態にあるとされていた。長年、業界内でこの話題を出すことが避けられていた。それが朝日新聞社会面のトップ記事になったことで、多くの業者が不安を感じた。
それは厚生労働省認可の全ク連も同様で、この年に行われたクリーニング展示会では、「建築基準法セミナー」の講師を、こともあろうに厚生労働省の役人が行うという混乱ぶりだった(実際、全く無意味な講演だった)。12月、今度は業界二位の業者が摘発されたため、国土交通省は全クリーニング所を調査することになった。
この間、当時政権与党だった民主党の若い議員が登場、国土交通委員会で「クリーニング屋さんがかわいそうだ、寛大な処置を」と発言すると、国土交通省の指導はいきなり軟化、取り締まらなくなったため、違法操業の業者はそのまま操業を続行、現在も違法操業は続いている。この議員は業者との関わりなどをマスコミに追求され、政界を去ったが、それでも違法操業は収まらない。
2010年9月11日、国土交通省は違法操業のクリーニング所が全体の50.2%と発表した。業界内では8割くらいは違反だと言われていたが、最初の業者の摘発から1年以上過ぎていたため、この間に合法化した業者も多かった。しかし、2018年に読売新聞が報じた記事では、その時点でも違法操業業者の2割しか改善しておらず、相変わらず多くの業者(全体の4割)違法操業状態にある。ある地域では合法化した業者が地元のクリーニング生活衛生同業組合からつるし上げに遭い、組合を辞めざるを得なくなるなど、異常な状態が続いた。
2023年、静岡県では土石流事件が発生、この事件は土盛りした土地を行政が「見て見ぬふり」をしていたから発生したとのことで、当時の川勝静岡県知事が「他にも見て見ぬふりをしている問題はないか」と担当者を問い詰め、クリーニングの建築基準法違反問題が浮上した。このため静岡では最近、指導が厳しくなったと聞くが、川勝知事は引退、その後の動向はわからない。
なぜか行政が15年も放置する建築基準法違反問題、これについて説明したい。
2010年9月11日、日本経済新聞の記事
何が違法なのか?
クリーニング工場では、ドライクリーニングが行われる、ドライクリーニングとは、水で洗うと縮んだりダメージを受けるウール、絹などの素材を水以外の溶剤で洗うことをいう。ほぼ全部のクリーニング工場ではドライクリーニングが行われている。
ドライクリーニングではほとんどの場合、石油系溶剤が使用されるが、これは引火すると爆発的に燃え上がるので工業地でしか使用できない。商業地や住宅地にクリーニング工場を稼働するには、法的にはコストの高い別の溶剤を使用することになる。
しかし、長年価格競争の続く日本のクリーニング業界では高いコストをかけられない。一人、一人と違法と知りつつ不正に手を染める業者が相次ぎ、遂には違法操業が状態化した経緯がある。
なぜ違法操業が多いのか
クリーニング業界では1990年代に「ユニットショップ」とか「パッケージプラント」などというノウハウが流行した。これは街中に工場兼店舗を併設すると、よりよいサービスを顧客に提供でき、売り上げも上がるという考え方である。
しかし前述の通り、街中でこれをやるには石油系溶剤の使用はできない。だが他の溶剤と石油系溶剤ではコストに大きな差がある。「ばれなければいい・・・」という発想が業界に蔓延し、「不正が当たり前」という状況になった。ユニットショップが街中に開店するときには、資材業者が協力し、まず合法なドライ機を設置して許可を取り、その後で石油系のドライ機にすげ替えるような不正行為が横行した。
クリーニング業界はおおむね閉鎖的である。他の業種の人々と接するような人物が少ない。凝り固まった人たちによって自分たちのルールが作り上げられる。そのため不正が横行した。
一方、零細な業者においては、1980年代頃、その頃大半の業者が使用していた塩素系溶剤(テトラクロロエチレン)の毒性が指摘されたとき、各保健所からこの溶剤の使用をやめるよう促された経緯もある。塩素系溶剤をやめれば、後は石油系溶剤しかない(他にフッ素系溶剤もあるが、コストが高く零細な業者には手を出せない)。行政から「パーク{テトラクロロエチレン)をやめて、石油にしろ」と言われた業者も多いという。石油系溶剤に替えれば保健所としては問題がなくなる。しかしこれは国土交通省から見たら違反になり、縦割り行政の犠牲者であるとの意見もある。しかしながら、違法操業は15年続いており、この間全く改善の意志を見せない業者にも問題はある。
なぜ取り締まらないのか
2010年に当時の民主党の若手議員が登場し、厳しい処置をしないよう国会で答弁すると、行政の指導はなくなった。政権が変わってもそれは同じ。ここには、政治連盟の存在もある。
全ク連からは、取り締まらない期間を「猶予期間」とし、政治への働きかけによって違法操業を継続するように促してるという文章が出ている。選挙になったら票をまとめるから違法操業を続けさせてくれとも取れる話である。「政治とカネ」のような現実がある。
各都道府県にあるクリーニング生活衛生同業組合でも、理事長ら三役自体が違法操業だったりする場合もあり、収拾が付かない。政治は票のために、行政は天下りのために違法操業を見て見ぬふりをするというのは、失われた30年といわれる日本の低迷の一端でもある。
全ク連から発表された文章の一部、違法操業を取り締まらないことを「長期猶予期間の確保」などとごまかしている。
放置することでの弊害
違法操業の業者を放置することにより、クリーニング業界では「悪いことをしてもとがめられることはない」というムードが高まり、業界のモラルがいっそう低下した。
建築基準法問題が起こった2009年以降、悪質なトラブルが増加した。店員へのパワハラが常態化し、紛失品を従業員に賠償させる会社や、月に過労死ラインを二度越える160時間働かせる会社なども登場した。この業界の労働問題は深刻であり、受付店員を「取引先」とみなして労働基準法の適用を逃れる「オーナー制」なども流行した。
一方、建築基準法違反についてはそれまで違反は工場に限られていたが、行政への申請を行わずに無断で建設するクリーニング店舗が作られるようになり、建築基準法問題自体もさらに違法が増えた。
この世界では悪い奴ほど儲かるという考えが定着し、正直者がバカを見る状態となり、業界のモラルは地に墜ちた。
2010年1月の業界紙記事。違法操業が多い業界なので、違法業者の視点に立った記事になっている。
巨大地震の前に早く是正を
違法操業を15年も放置するのはあり得ない。どこかで犠牲者が出る前に、早くこの問題の是正をするべきである。
この問題を放置して違法操業を続けさせた場合、怖いのは個々の火事よりも、巨大地震が発生した場合である。阪神大震災では大規模な火災が発生し、亡くなった人の多くは火災が原因だという。違法操業を放置すると、街中のクリーニング店にある石油系ドライ機が爆発的に燃え上がり、火災の規模を巨大化させてしまう。違法操業のクリーニング所は東京、神奈川、大阪など大都市に多く、余計に危険である。
巨大地震が都会を襲うまでに、早くこの問題を解決するべきである。
2018年の読売新聞記事。いつまでも改善しない違法操業業者を批判している。