建築基準法違反-改善する気のない業者に猶予期間はおかしい

改善する気のない業者に猶予期間はおかしい。

まだまだ続く違法操業

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 2018年、違法操業の業者を批判した新聞記事

継続する違法操業

 当NPO法人クリーニング・カスタマーズサポートが発足した最大の動機は、2009年に起こったクリーニングの建築基準法違反問題にある。当時業界売上二位、三位の業者らが相次いで建築基準法違反で摘発され、石油系溶剤の使用できない住宅地、商業地に資材業者ぐるみで行政を欺き、次々と展開していった悪質さが暴かれた。しかし、これは摘発された二社だけの問題ではなく、クリーニング業界全体の問題だった。多くの業者が建築基準法に違反しており、合法な業者、法律を守っている業者はむしろ少数派になっていた現状があった。2010年には大甘の調査にもかかわらず、全体の50.2%という調査結果が出た。それにも関わらず、現在でも多くの業者が何の指導もなく、のうのうと違法操業を継続している。あまりにも業界にモラルがなく、既存の組織では健全化が望めないので、NPOを設立してそういう役目を担おうとスタートしたのである。

 違法操業に関しては、特に厚生労働省認可の全ク連に違法操業の業者が多いから始末が悪い。彼らは政治連盟を結成し、政治家を利用して行政に指導させないよう圧力をかけているのだろう。

 しかし最近、前回述べたとおり静岡県で動きがあり、建築基準法違反に関する指導の猶予期間を静岡県ではあと2年、特定行政市の静岡市であと3年となったと静岡市の職員から聞いた。静岡県では2021年に土石流の事件があり、あの事件も指導を先延ばししていたことから発生した問題なので、それがクリーニングにも波及したという。このときこの問題について「猶予期間」という言葉が出てきた。急にダメとなってはかわいそうなので、改善するまでの「猶予期間」を与えようというわけである。確かに全ク連の文書にも猶予期間のことは書かれている。

 当NPOの目標は業界の健全化だが、多くの業者が平気で違法操業している状況はとても健全とはいえない。特に厚生労働省認可の全ク連がこの問題をタブー視して自らも不正に手を染めているのでは話にならない。当NPOが一番解決したい問題である。

 

猶予期間のおかしさ

 実際、猶予期間というのはおかしい。明らかに違法なのに、なぜ放置するのか?政治家が動き出した2010年2月までは、行政が違法操業を見つけると直ちに指導して改善させていた。

 業者がいきなりではかわいそうなので少しは改善まで時間を与えようというのはわかるが、静岡市がいうように、最初は5年で、改善されなかったのでまた5年・・・などとやっていたら、いつまで経っても改善されない。延々に猶予期間は続くのでは、なんのために法律があるのかわからない。

 それにしても、いくら土石流の事件があったとはいえ、静岡だけ先に動くというのもおかしな話である。そこで、他の二県庁の建築住宅課に連絡し、「クリーニング所の建築基準法違反に関してはかなりの数のクリーニング所が違法操業を継続しているにも関わらず、指導が行われていない。静岡で猶予期間というのを聞いたが、指導を行うのにどのような猶予期間があるのか」と聞いてみた。

 両県の担当者は、「よく調べて回答します」と応え、事実、両方から回答が来た。まずA県の場合は、「国土交通省(国からという意味)から指示があり、クリーニング所の調査を行うことになった。その指導に関しては、猶予期間を設けるようにとの指示があった。猶予期間については、2年間とし、終了時点で次はどのようにするか検討することとした」とのことだった。B県もほぼ同じで、ただ猶予期間については、「1年」とし、やはり終了時点で次はどのようにするのか決定とのことだった。

 要するに国がこの問題を各都道府県に年数を示さず「猶予期間を設けて」と曖昧な指示を出したために、猶予期間が延々とエンドレスになっていることがわかった。結局、国は責任を各都道府県に丸投げしたのである。建築基準法の指導に関しては、静岡県の事例でもわかるとおり、特殊なケースで指導が始まる場合もあるが、各地でまちまちでは業者も行政も困るのではないか。何十年間も問題を放置し、それを下に丸投げした国土交通省は無責任である。

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猶予期間という文字が出てくる全ク連発行の文書。政治、行政を動かして違法操業を続けていることがわかる

建築基準法違反の悪質さ

 多くの業者が違法操業に手を染めているが、各業者に「悪いことをしている」という意識はない。業界全体で違反が当たり前なので、感覚が麻痺しているのだ。

 しかし、各地で行われていることは明らかに偽装工作そのものである。最初に摘発された大手二社は、現実に使用していない不燃性の溶剤を「これを使用している」と行政を欺いている。悪質だが、実はこれと同じようなことは日本中で行われているのだ。

 ある大手業者は合法なフロン系溶剤を使用するドライ洗濯機を1台購入し、各地に工場を建てるときはその1台を使い回して「これを使用している」といって許可を取り、その後石油系溶剤を使用する洗濯機に交換していた。また、別の小規模な業者は住宅地の街中にユニットショップを開店する際、資材業者から塩素系溶剤を使用するドライ洗濯機を借りて設置、許可の後でやはり石油系溶剤のものに交換していた。資材業者まで手を貸すのだから、業界ぐるみである。最初からごまかすつもりで行政を欺いて始めたクリーニング所に、猶予期間を与えるというのはいかがなものか。いくら悪いことをしても許されるなら、誰もが法律を守らなくなるだろう。

 

犠牲者が出るまで

 そもそも猶予期間を設ける理由は、現在違反状態にある業者らが改善するまで時間をあたえるものであり、改善を前庭としているはずだ。しかし、2010年にクリーニング業界で大規模な違反状態にあるとわかってから現時点で12年、一部の真面目な業者らが改善を行ったものの、大半の業者は何一つ改善していない。改善する気配すらない。昔のままの状態で今も違法操業が継続されている。改善する意志がない業者らに猶予期間を与えるのはおかしいのではないか。

 日本は誰かが犠牲にならないと物事が動かない社会といわれている。飲酒運転で子供が亡くなると、どの職場でもドライバーのアルコールチェックが義務付けられた。保育園で幼児がバスに取り残されて亡くなると、また新しいルールができた。犠牲者が出るまで、延々と猶予期間が続けられている。将来、どこかのクリーニング所でドライ機に火が燃え移り爆発的に燃え上がり、延焼して罪もない人が亡くなると、おそらくは全国の行政が一斉に指導に乗り出し、違法操業はなくなるだろう。現在違反操業を続ける業者らも、そういうつもりでやっているに違いない。

 しかし、犠牲者が出なければ世の中が変わらないというのはあまりにひどい。犠牲者を出す前に行政は動き、この問題を解決するよう、切に願うのみだ。

 街中に引火性溶剤を違法に使用する業者を野放しにしておくと、火災の恐怖ばかりでなく、将来必ず起こるといわれている大地震のときに大きな火種になってしまう。阪神大震災のときも大規模な火災が発生したが、クリーニング所はドライ機に燃え移り、強力な火力で何一つ残らなかったという。クリーニングの違法操業は東京、大阪、神奈川など人口密集地に多く、住宅が密集した地域でドライ機が爆発すれば大火災は避けられない。エンドレスで続く猶予期間・・・もし犠牲者が出たら、そのときには違法な業者に頼まれ、ダラダラと猶予期間を先延ばしした誰かに厳しい責任追及が成されるだろう。

 kaji2

 

クリーニング店の火災。罪もない人が犠牲になる前に違法操業はなくすべきだ