建築基準法問題動く
静岡で指導の動き
クリーニング所の火災。ドライ洗濯機に引火すると爆発的に燃焼し、非常に危険である
業界筋からの話
業界筋の話によると、静岡県でクリーニングの建築基準法違反に関して、遂に行政が指導で動き出したという。
クリーニング業界の建築基準法違反問題に関しては、2009年に大手業者の不正が発覚して以降、かなりの業者が違法操業しており、10年以上過ぎた今も相変わらず平気で違法操業を行っている業者が全体の4割以上(1万軒強)もいる。なぜ不正なのに全く放置されているのか?しかし、ここにきて静岡県が先陣を切って動き出したようだ。
クリーニングの建築基準法問題
改めてクリーニングの建築基準法問題を説明する。クリーニング業者がドライクリーニング溶剤(水で洗えない素材に使用し、水の代わりに衣料を洗う溶剤)として使用するのはほとんどが引火性の石油系溶剤である。これは火がつくと爆発的に燃え上がり危険なので建築基準法により工業地でのみ使用が可能で、商業地、住宅地では使用できない。
1980年代から人の集まる商業地、住宅地に工場兼店舗を作ると利益性の高いクリーニング店になる(ユニットショップとかパッケージプラントと呼ばれた)ことがわかった。商業地、住宅地では石油系溶剤は使用できないため、フロン系の溶剤などが使用されたが、価格が高いので、こっそり石油系に交換する業者が出てきた。そういう違法な行為に一人、一人と手を染め、やがて7,8割が違法操業する(摘発された会社社長の話)ようになった。
2009年、大手二社が行政に虚偽申請して次々と違法工場を開設していたことが発覚、国土交通省は全クリーニング所を調査したが、半分以上が違法と発表された。
クリーニング業界は順法精神が極めて希薄であり、他の業者もやっている、じゃあ、オレもいいだろうと安直に不正に手を出す業者が多い。建築基準法違反はそういったクリーニング業者の悪癖を代表する問題である。一部の悪質な業者が手を染めたとかではなく、厚生労働省が認可するような団体が組織的に行っていた不正であり、これは業界全体の問題である。
2009年、大手業者の建築基準法違反が発覚、クリーニングの建築基準法違反は「業界の秘密」だった
2010年9月11日、半分以上のクリーニング所が違反であると発表された
政治家に守られた違法業者
しかしながら、その後10年以上過ぎても行政はさっぱり動かず、違法業者達は相変わらず平気で工場を動かしている。なぜ指導しないのだと行政に聞いても、なかなか答えてくれない。
実は全国クリーニング生活衛生同業組合連合会(全ク連)は、全国クリーニング業政治連盟という団体も兼ねていて、政治家と近い。政治力を使い、自分たちの違法操業を指導させないようにしていたようだ。最近起こったカルト教団問題と似ている。政治家は、票のためならなんでもするという。票のために不正な業者達を取り締まらないのである。これが先進国といえるのだろうか。
日本のクリーニング業界は全国どこでも大手業者の寡占状態であり、建築基準法違反にとどまらず、景品表示法違反、とりわけ労働基準法違反と違反のオンパレードである。それにもかかわらずこれらが放置されているのは肝心の厚生労働省認可のクリーニング生活衛生同業組合が建築基準法違反だらけだからである。そういう生活衛生同業組合が政治家とつながっている。構図はカルト教団問題と全く同じである。
毎回選挙が近づくと全国クリーニング業政治連盟の名で推薦状が出回る。全ク連幹部も政治家の下を訪れ、応援する。その見返りが違法操業の見逃し?
静岡市行政の話
しかし、静岡では動き出したという。実際のところはどうなのか?静岡市に連絡して確認すると、静岡市建築指導課から大変詳しい説明があった。
クリーニングの建築基準法違反に関しては、2009年に大手業者の違反が発覚し、事態を重く見た国土交通省が全国の業者を調査、50.2%のクリーニング所が違法との発表があった。その後、猶予期間を5年とし、その後さらに5年延長したが、一向に改善されず、たまりかねた行政が、静岡市があと3年、静岡県があと2年とし、それ以降は容赦なく改善させるとの決定が成されたとのこと。
静岡市の担当者は大変丁寧に答えてくれた。静岡県はクリーニング先進県の一つで、立派な業者が多い。そういうところで、行政も優れているのだろうか。
猶予期間?
今回の取材で、初めて建築基準法違反問題の「猶予期間」という言葉が出てきた。猶予期間が設けられたというのは初耳で驚きだが、全国クリーニング業政治連盟などの働きかけ(不正の是正を先延ばししてくれというのだからひどい話だが)があったのかも知れない。猶予期間は5年とし、それをまた5年延長したが、この間クリーニング業者の間で違法操業している業者が改善していこうという動きなどはほとんどなかったし、クリーニング業者はこの話題に触れられることを避けていた。改善していこうと自ら立ち上がるような気持ちはさらさらなかったのである。
猶予期間については、確かに全ク連の公表した用紙に「猶予期間」と書かれていた。政治や行政とのつながりがあるので、不正行為も猶予期間を付けてもらったとはっきりわかるような用紙である。法律違反を組織的に行っていながら、この開き直りには呆れた。選挙の時は協力してくれるから不正行為の継続をさせてやるといっているようなもので、政治もカルト教団とのつながりと全く変わらない。
猶予期間を設ければ、クリーニング業者達も改善すると思ったのだろうか?そんな考えの業者は少数派である。「何が悪いんだ」くらいにしか考えていない。
全ク連が配布した文書には確かに「猶予期間」の文字がある。行政は猶予期間を設ければクリーニング業者が改善するとでも思ったのか?
票にならず、見切りを付けられた全国クリーニング業政治連盟?
もう許しませんとなった背景には、クリーニング業界の票が全然頼りにならないことを政治家が理解したからかも知れない。2019年度、2022年度に行われた参議院選挙ではクリーニング業界が推した候補者が二回連続で落選している。会員が激減している全ク連などに票が集められるわけがない。いつまでも違法操業を続けて改善する気もなく、票にもならないクリーニングに政治家が見切りを付けた可能性もある。
そもそも、違法なのに許されてきたのだから、そっちの方が問題だ。政治家もカルト教団とは違い、票にならないから見切りを付けたのだろう。
動機は土石流
しかし、なぜ静岡県で始まったのだろうか?これについて聞くと、意外な答えが返ってきた。2021年7月、静岡県熱海市で土石流事件が起こった。あの大変な事件も管轄が国土交通省である。職員の話では違法であるのにうやむやにしてきた結果、あのような事件が起こっている。クリーニングの違法操業は全国で1万軒以上。高齢な業者や、外国人技能実習生を入れてコミュニケーションが十分でない工場も多い。火災が発生する可能性は高い。犠牲者が出れば行政は動くというが、改善する気などさらさらないクリーニング業界にいくら猶予期間など与えても無駄だ。
2021年7月に静岡県で発生した土石流事件。これも国土交通省が管轄
正しい方向性へ
鹿児島ではある業者が自社が違法であることに気付き、法律を勉強するなど努力して合法化したところ、鹿児島県クリーニング生活衛生同業組合に呼び出され、「みんな違反しているのに困るだろう」などといわれ、組合を脱退することになったという。真面目な業者を閉め出すような行為がクリーニング業界では当たり前のように行われ、政治家や行政がそういう違法業者を支援している。なんのための法律なのか。正義はどこにあるのか。
今回、静岡から動きがあったのは歓迎する話ではあるが、「静岡は土石流の問題があったから指導する」という論理はおかしい。法律に「猶予期間」などという規定があるとも思えない。多くのクリーニング業者が開き直って違法操業を続けているのは大変腹立たしい。10年も違法操業を続けて恥ずかしくないのか?犠牲者が出る前に、一刻も早く是正してもらいたい。
クリーニング業者がよくいう「是正されれば、生活ができなくなる」というのは真っ赤なウソである。溶剤を代える、ドライクリーニングだけ別の場所で行う、他の業者に洗いを任せるなど回避策はたくさんある。違法操業業者が多いので、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」の論理でごまかしているだけだ。法律を守っている業者たちは未だ違法操業を続ける業者を腹立たしく思っている。猶予期間など論外で、悪質業者は直ちに指導すべきだろう。
クリーニング工場の火災。ダラダラ先延ばしして、もし周辺住民に犠牲者が出たら誰が責任を取るのか。土石流事件も指導の先延ばしが原因である