クリーニング業者の約半数が横領、脱税している?

小規模クリーニング業者は横領、脱税しているのか?

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不思議なレジおすすめの冊子

 会社「クリーニング店・ポスレジのすすめ」なる冊子が届いた。15ページほどの冊子は全ク連(全国クリーニング生活衛生同業組合連合会)発行で、中身はタイトルの通り、生同組合に属するクリーニング業者にレジの導入を勧める内容である。売り上げの管理に役立つとか、レジ導入のメリットが書かれてある。

 現在はどこのクリーニング店にもたいてい受付レジは置かれており、手書きの伝票の店などほとんどない。あるとすればよほど零細な業者とか、高齢で後継者のいない業者だろう。そういう人たちは売上もわずかだろうし、今さらレジなど入れる意味があるのだろうか?そう考えるとこれは意味のわからない冊子である。

 全ク連はこのような冊子をたまに製作するが、これらは国からの補助金で作られている。補助金の財源は勿論税金。意味のないことに税金を使用するのはいかがなものか。

 

レジを入れない理由

 しかし、彼らがレジを入れない理由は、別のところにあるともいわれる。

 あるクリーニング用レジ会社の営業マンが小規模なクリーニング業者を訪ね、レジの導入を勧めたところ、店主から、「レジなんか入れたら、売上がわかってしまうじゃないか」と言われたという。要するにこの店は年商1000万以上になると消費税を払わなければならないから、手書きで正確な売上を把握されないのをいいことに、税務署には過少申告して脱税しているというのだ。小規模業者はみんなそんなことをしているのか?

 いわれてみると、いやに羽振りのいい小規模業者に会うことがある。一時期、クレーム解決の問題等で大手業者と特に首都圏の全ク連系業者が近しくなった時代があった。そんなとき、従業員などいない家内工業の業者が飲み屋でバンバン金を使っているので驚いたことがある。海外旅行なども頻繁に行っているようだ。クリーニングは小規模の方が儲かるのかと思ったほどである。クリーニングは人件費率が高いので、一理あるかも知れない。

 ただ、5千万円の売上を1千万円以下に偽装するのはほぼ不可能だろう。そんな極端な犯罪まがいの脱税はないと思われる。それでも、正確な伝票がなければいくらでもごまかせるだろう。どのくらいの業者がそんなことをしているのだろうか?

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インボイス制度で、零細業者は大打撃?

 衝撃的な業界紙記事

 2019年12月、クリーニング業界紙ゼンドラは2023年に導入されるインボイス制度に言及し、そういう零細業者に警句を鳴らしている。

 この記事によれば、新制度では領収書に納税業者番号が付くが、年商1000万円以下の業者はそれを免れるものの、納税業者番号のない領収書をもらっても、領収書として効力がなくなるため、零細業者は打撃を受けるという。相手が法人であれば、取引自体がなくなる可能性があるのだろう。

 この記事で重要なのは零細業者のピンチというよりも、各業者の「横領」、「脱税」である。クリーニング業界の約半数が年商1000万円以下の「免税事業者」であるとし(年商1000万円以下の事業主は現在10%の消費税を免除される)、業界知識人の言葉として、「ほとんどの免税クリーニング業者は、本来納税しなければならない消費税分は、益税としてお財布に入れてしまっています。たぶん、その分が個人事業主のお小遣いとなっているのでしょう」と書かれている。売上をごまかしてピンハネしているというのだ。売上金を業務上横領し、売上を1000万円以下に「調整」して脱税していることになる。

 業界全体の半分が平然と横領、脱税しているのなら、それは大問題だ。しかし、2009年に起こった建築基準法問題では、摘発された業者が「業界の8割が違反」などと平然と述べていたことがあり、国土交通省の大甘の調査でも全体の半数以上が違反だった。違法業者の方が合法な業者より多数派だった。これはあり得ない話ではない。不正な業者の脱税を取り締まるというのなら、このインボイス制度は適法といえるだろう。それにしても、業界を代表する業界紙が堂々と「半数の業者が売上をちょろまかしている」などと書くことが異常だ

 

零細業者に蔓延する適当、不正経理

 こういった脱税行為はおそらく業界に蔓延しているのだろう。クリーニングは形のある商品のない商売であり、そこに正確な伝票もなければいくらでもゴマカシがきく。年商1000万円以下の業者は年に一度、伝票を集めて商工会議所などに持って行くだけが彼らの「経理」。意識的に脱税しているというより、これはいわば零細業者の「慣習」。そういうやり方で何十年もやってきたのだ。

 おかしな経理は業者単位でなく、業界団体も同様。2005年頃、福島県クリーニング生活衛生同業組合は団体の帳簿を巡って大きく揺れた。50年間も団体の財布を預かってきた79歳の女性事務長が「団体に金を貸してきた」と発表、団体と個人の財布が一緒になっているのではと問題になった。外部監査が行われたが帳簿は事務長提出のものしかなく、一年分の帳簿がまるまる紛失していた。問題点を理事会で追求すると事務長は泣き出し、そこに高齢な業者達の同情が集まって責任問題どころでなくなる。結局これは何も問題がなかったとされ、その後事務長は突然退職、三役は一斉に交代して責任放棄、問題は闇に葬られた(現在の同団体は後継の人々が反省を踏まえ、税理士も呼んできちんと運営している)。

 厚生労働省が認可する団体ですらこうなのだから、零細な業者の帳簿が怪しいのはある意味当然だ。クリーニング業は生衛法によって「零細な、小規模で保護すべき人たち」と解釈されており、少々のことは行政も放置されるのかも知れない。法律の矛盾もこの問題の大きな原因になっている。

 

脱税業者が「業界の代表」なのか?

 困るのは、そういう業者が「業界の代表者」であることだ。きちんとした方なら問題はないが、売上をちょろまかし、建築基準法違反で違法操業を続けるような業者が各地の生同組合で理事長などの役職を務め、ときには叙勲されていることにより、多くの人々、クリーニングを利用する消費者やクリーニング会社で働く労働者らに多大な迷惑がかかっている。

 自らの店の売り上げすらわからない業者がトップにたてば、業界はバラバラになり、業界に規範がなくなり、各自が勝手なやり方で会社を運営するようになる。とりわけ、市場の大部分を占める大手業者は抑制するものが全くなく、各自がやり放題になる。

 クリーニング業界では今日でも「インフルエンザ予防に」、「花粉症に効果がある」などという不思議な加工製品が顧客に有料で勧められている。衣料品に何か加工することによりインフルエンザや花粉症が防げるならいいが、科学的に考えてそんなことがあり得るだろうか?これらを検証しようにも、自ら脱税している業者がトップでは、何もできないだろう。

 クリーニング業界最大の問題は労働問題であり、当NPOに寄せられる相談の大半はどこかのクリーニング業者に勤務する方々からの「残業代が出ない」、「労働基準法が守られていない」など深刻な過重労働の話ばかりである。労働問題を解決しようにも、生まれてこの方人を雇ったこともない人が理事長では、何一つわからないだろう。だからブラック企業がはびこる業界になっているのだ。

 全ク連は所属する業者が売上をちょろまかし、脱税している実態がバレないよう、こんな冊子を作ったのではないか?そう思われても仕方がない。それにしても、悪事を事前に隠すため、国税が使用されているのにはなんともいえない矛盾を感じる。

 クリーニング業界では一般に、「零細な小規模業者は真面目で、大手業者が良くない」というようなことが言われる。それを根本的に覆したのが2009年に発生した建築基準法問題である。今回の問題はそれよりさらに悪質に思える。「POSレジを導入しましょう」という冊子が示すものは、結局、「みんなあくどい」という事実ではないか。