ブラック企業を題材に講演しました

ブラック企業を題材に講演しました

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  クリーニング業界ではブラック企業問題が深刻ですが、ブラック企業のやり方、生態についてはこれまであまり語られてきませんでした。2019年7月にこのブラック企業を語る講演会を行いました。以下はその話です。

 JC(青年会議所)OBの研究会

 2019年7月6日、青年会議所のOBで結成された小森経営研究塾というグループが須賀川に集合、当NPO法人クリーニング・カスタマーズサポートの活動を中心とした講演会、見学会が開催されました。

 講演の演題は「ブラック企業のススメ」。これは、当NPOが相手にすることの多いブラック企業問題を題材に、ブラック企業の手法を研究、紹介していくという逆説的な展開の話題です。

 最初に、クリーニング業界の外観的な流れを説明し、次にNPO法人クリーニング・カスタマーズサポート設立後の活動を紹介、その後にこれまで研究したブラック企業のノウハウを一つ一つ説明、最後には、現代社会とブラック企業との整合性を説明しました。

 こういった内容の講演は初めてなので、参加者は興味深く聞いていました。どんな商売にも問題はありますが、身近にありながら秘密の多いクリーニングだけに、関心は高かったようです。

 以下はブラック企業の手法について説明したものです(ここではクリーニング業界の流れやNPOの活動は当HPに記載されていますので省略し、ブラック企業のノウハウとその影響力のみ記載しました)。

 

ブラック企業のノウハウ

 クリーニングのブラック企業は以下のような方法を駆使して運営されていると思われる。

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○本社を田舎に置く

 本社は出来るだけ偏狭な田舎にかまえる。新幹線が届かなかったり、高速道路が途中で途切れていたりする土地が望ましい。偏狭な地に本社があれば、もし支店で労働問題が発生しても、「団体交渉は本社で応じる」とする。遠すぎて行けないので、これでたいていの人はあきらめる。

 本社のある地域ではあまり無茶をせず、普通に仕事をして問題を起こさないように注意する。田舎にはあまり産業がないので、その土地の人たちからは「他に進出する大きな会社」として尊敬を集める。

 ○一年中セールをし、常に追加料金を考える

 ブラック企業の多くは低価格なので、それを補うため、一年中セールを行い、常々追加料金を考える。定価をある程度高く設定し、いつも半額セールを行う。シミ抜き料金、様々な加工、幅広い扱い商品など、利益を出すためにはあらゆることをする。実際の効果や矛盾は無視する。店員達には毎月順位表を発表して追加料金の数や額を競わせ、優秀な人は表彰する。

 ○業界平均の二倍の生産量を要求する

 工場では、業界平均値の二倍の生産量を目標にする。クリーニングでは人時生産率(工場作業員一人が一時間に仕上げる衣料品の数)の業界平均が20くらいだが、目標を倍の40にする。「他の工場では達成している」と説明すれば、作業員達は必死になって取り組む。目標達成のため残業代を申告しなくなり(タイムレコーダーを押してから働き)、人件費の節約になる。時間内にできるわけのない仕事量を与えることにより、作業員らが肯定の短縮や手抜きを行うようになり、ここでも経費が削減できる。業界平均の二倍の生産量を目標としても、業界がまとまらず、業界標準などが曖昧なクリーニング業界などはこれが最も有効に働く。一般従業員は業界平均などわからないので心配はいらない。

 ○徹底した経費節減

 経費節減を徹底的に行う。店員の制服、靴などは個人持ちとする。従業員全員を格付けし、ほぼ100%の従業員を「平均以下」とする。こうすれば「あなたは成績が悪いから支払えない」と、昇給や賞与をゼロに出来る。洗剤や包装剤などの資材は徹底的に叩き、洗浄力がなくても安いのを選ぶ。衣料品の紛失などは店員の責任にして個人に弁償させる。会社で行う宴会などは互助会費として全員の給料から天引きする。各支店のマネージャー達に採算を競わせ、優秀なマネージャーは高く評価する。これでマネージャー達はボールペン一本もケチるようになり、採算に大きく貢献する。

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 ○店員の労働時間に目標を作り、競わせる

 毎月店員会議を開き、各店舗には売上、点数、加工獲得率、1時間当たり売上などの他、労働時間にも目標を作り、各店に競わせる。各支店を管理するマネージャー達は採算を競っているので、部下の店員達の残業代を削り、人件費が節約できる。

 工場への返品率、クレームの発生率なども競わせ、返品やクレームを発生させた店舗や支店は成績を下げる。こうすることにより、クレームを報告しにくくなり、店員達は自腹で弁償し、経費節減になる。

 ○完全ワンオペの実施

 各店舗は早番と遅番の二人の交代制とし、完全ワンオペを実施する。仕事が残ったら次の人が引き継ぐことにする。現実には時間内に出来ないが、次の人に残すと人間関係がまずくなるので、各店員は自然にサービス残業をするようになり、人件費節約になる。忙しい店舗や繁忙期は二人で仕事してもいい時間を設けるが、これも「1時間当たり売上が足りない」とかいろいろ条件を付け、できるだけ給料を削る。

 ○地方銀行を味方に付ける

 ゼロ金利時代の今、銀行は苦しい運営を余儀なくされる。これは田舎に行けば行くほど顕著。そこで地方銀行を味方に付け、協力を要請する。経理代行、他社のM&A、情報収集、会社のPRなど銀行は何でもやってくれる。銀行は収益が良ければそれで良く、不正行為が横行するなど全く気にしない。

 ○広告宣伝費を15%にする

 一般にサービス業の広告宣伝費は5%程度が指標だが、ブラック企業は10%以上、15%程度に設定する。立派なパンフレットを作り、大手経済新聞地方版などに広告を載せ、ちょうちん記事を書かせる。また、誰もが愛する有名キャラクターを高額でも会社と契約して使用する。どんなにブラックであっても、大手経済新聞で評価されれば世間は「立派な会社」と思うし、有名キャラクターは誰からも好かれている。有名キャラクターこそ、すべての悪事が許される免罪符である。従業員の給与を削ってキャラクターに廻すことこそ、ブラックの王道である。

 〇外国人技能実習生は徹底的に活用する

 マスコミに不正を暴かれ、ブラック企業との噂が立つと、ネットで悪い評判が出るようになり、従業員が集めにくくなり、人手不足を心配するようになる。それを補うため、外国人技能実習生をできるだけ活用する。

 この制度の中では外国人は逃げられない。経費節減のため工場の倉庫に住まわせ、家賃はしっかり取り、日本人と同じく重労働を課すことにより、収益に大きく貢献する。

 ○責任はすべて従業員になすりつける

 現場の上司が厳しいと、本部に苦情を言う従業員が出てくる。そういうときは、正論だけ言う。現場の上司にはそのままやらせておく。いよいよ従業員が立ち上がり、不正行為が世間に知られそうになったら、それはその上司の責任としてクビを切る。本部は正しい指示だったとすることで問題を回避できる。

 ○秘密を漏れないように工夫する

 従業員を酷使すると、不正な事実を内部告発しようとする従業員が出てくる。その対策のため全従業員に「秘密保持のための誓約書」にサインさせる。「漏らした場合、法的措置に従う」などの脅し文句を入れれば、従業員は法律の知識に乏しいので情報を漏らさなくなる。「時間当たり売上高」など外部に知られたくない情報は紙に印刷せず、受付レジのディスプレイでしか見られなくする。各店舗には防犯カメラの名目で「監視カメラ」を入れ、各店員を監視する。ずっと見ていなくても、大きな抑止力になる。

 ○上場を目標とする

 ブラック企業の最終目標は上場である。上場すれば、赤字になって倒産しても経営者の金銭的な責任はなくなる。上場すれば関連する機関も儲かるので銀行も証券取引所も儲かり、投資するようになる。彼らは会社のブラック度など全く気にしない。このように、ブラック企業は多くの人々を犠牲にして、それで終結する。上場後の運営はその後考える。

  

ブラック企業のススメ

 現在の社会は、ブラック企業には最適の環境が整っているとも思えるし、競争に勝つためにはどの会社もブラックになるしか道がないかも知れない。ここでは、ブラック企業が有利な要因、ブラック化する理由を述べてみたい。

 

○本社以外でメチャクチャなことをしても、ほとんど問題ない

 会社を外部から見る場合、どのような機関もほとんど本社所在地しか見ない。見られるのが本社だけなら、他は不正に手を染めてもそうそう気付かれない。労働基準監督署のような行政も本社が遠いと面倒がって手を出さない。そう考えると、本社だけ普通にするのはかなりのノウハウだ。

 ○手抜きはそう簡単にはバレない

 食品業界などだと手抜きは品質に直結し、味がまずいなどすぐに発覚する。また、体に入るものだけに危険である。クリーニングは具体的な商品がないため、手抜きがバレにくい。価格を安くすれば消費者も多少のことはいわなくなる。

 〇不正行為を取り締まる機関が何もない

クリーニングは厚生労働省管轄で、各都道府県にはクリーニング生活衛生同業組合があり、かつては大手業者に様々な法的規制を書けてきたが、現在ではすっかり疲弊し、高齢の零細業者ばかり。また、クリーニングも管轄する生活衛生営業指導センターがあるが、ただの天下りで何の知識もなく、今まで一度もブラック企業相手の行動を起こしたこともない。これはブラック企業にとって最適の環境である。

 ○インチキな商売、ナンセンスな宣伝をしても、大半の人は気付かない

 実際にほとんど効果のない加工、不自然な追加料金を取っても、普通の人はわからない。店頭で1対1で言われるので、冷静な判断ができない。景品表示法に抵触すれば消費者庁が管轄官庁だが、一企業の問題などにはいちいち対処しないのでほぼ放任している。

 ○ブラック企業と批判されても、そうそう倒産しない

 他の産業でもブラック企業と批判された会社はいくつかあったが、たいていは現在も健在である。悪質度の度合いが違うが、「ブラック企業」という評価で、決定的なダメージを受けるとは限らない。

 顧客がクリーニングを利用する理由のトップは「近くにあり便利だから」。近くにあれば、ブラックでも利用してくれる。

 ○クリーニングはブラック企業に向いている職業である

 クリーニングの法律は昭和25年施行のクリーニング業法、昭和32年施行の生衛法で、大手業者を管理する法律が存在しない。そこで価格競争が半世紀以上も続いている。また、クリーニング業者は業界内だけで付き合い、他の業種と接点を持つ人物が少ない。そういう中で2009年には建築基準法問題が発生し、7,8割の業者が違反といわれた。その後も、おかしな手法が流行ると多くの業者がそれに手を染める。悪貨は良貨を駆逐するという言葉が大変似合う業界である。

 この様な世界では悪いことをしても拡大した業者が尊敬されるようになり、結局一番悪い業者が一番得をする。何の束縛もない以上、やったもんが勝ち。クリーニングはブラック企業に向いているといえる。

〇業界がブラック企業を守ってくれる

 クリーニング業界は閉鎖的な社会で身内をかばい合う傾向がある。「洗っていないクリーニング業者がいる」などと否定的な報道がされると、自分を業界の代表だと勘違いしている無知な零細業者が「オレ達をバカにしただ!」と大騒ぎして反発する。大手業者のやり方など何一つわからない零細業者がブラック企業のありがたい味方になってくれる。

 ○一般の人びとは労働基準法をわからないし、労働組合を全く理解していない

 現在でも多くの労働者が労働基準法を全く理解しないで日々働いている。日本ではどこの教育機関でも労働法について教えられることがなく、十分な知識のないまま働いているのが現状である。ブラック企業からその会社独自の決まりを押し付けられても、労働者はそれ真実だと思い込む。

 ○そもそも行政に取り締まろうという気がない

 当NPOに多く寄せられるのが、「労働基準監督署に行ったが解決にならなかった」という話である。労働基準監督署の職員は、日本の労働者に対し、3000人に一人しかいないという。これで、ブラック企業を取り締まれるわけはない。国の施策としてブラック企業を放任しましょうと決めているとしか思えない。

 ○世の中のほとんどの人は、「事を荒立てたくない」「長いものには巻かれろ」

 労働者の側に会社側に立ち向かおうという気がない。多少のことは我慢しようという気持ちが強い。ブラック企業はそこに付け込むので、結局は何事もなく終わってしまう。ほとんどの人は臆病である。何事も泣き寝入りする人が多い。

 

奇抜な講演会

 経営者の集まりなので、こんな奇抜な講演になりました。

 勿論、こんなことが許されるわけはありませんが、ここは現在世間を騒がすブラック企業が、どのような方針で、どのような目標を持って進んでいるのか寄せられた情報を元にまとめてみました。ここで挙げられた事柄については、他の産業でもおおよそ似通った傾向があります。ブラック企業専門のコンサルタントが存在し、各地で指導しているのかも知れません。

 ここではブラック企業の手法が素晴らしいように説明していますが、この様なやり方では労働者は疲弊し、正規の賃金も支払われず、変な追加料金が常態化して品質も悪化し、消費者に迷惑がかかります。第一、いろいろな法律に違反しています。社会が悪くなってしまうでしょう。また、普通の教育を受け、普通の生活をして育った人だったら、ここまであくどく徹底することに耐えられなくなるでしょう。お勧めすることは決してあり得ませんが、ブラック企業は深刻な社会問題です。ブラック企業を研究し、生態を知る上ではこのような勉強も必要だと思います。

 ここに書かれた情報は、クリーニング会社で働く労働者の人びとから寄せられたものばかりです。このように公表されることにより、悪い業者は不正をやりにくくなります。その意味で皆さんからの情報は大変重要です。

クリーニング業界の裏側表紙

「クリーニング業界の裏側」は、参加者全員に配られました。