クリーニングと特措法 法律は不平等に運用されている

クリーニングと特措法

法律は不平等に運用されている

 CIMGクリーニング店のチラシ

 一年中セールをするクリーニング業界。その大半は半額セール(特定の業者を指すものではありません)

 クリーニングでは一部の業者により、法律が不平等に運用されている問題がある。コロナ禍で決議された特措法は、それを他の世界に広げていく恐れがある・・・

 

クリーニング業者の摘発

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 クリーニング業者の摘発を扱った地元紙

 2019年秋、岩手県でクリーニング業者が景品表示法違反で摘発されたとのニュースが入った。消費者庁のサイトにはその詳細が載っていた。景品表示法の有利誤認に触れたという。同じようなセールを数ヶ月続け、常にセール価格で受け付けていたようだ。

 これは大変驚く情報だった。というのは、日本中の大手業者、とりわけ安売りクリーニング業者はみんな同様のことをしているからである。「毎日がセール価格」などと謳い、一年中セールを繰り返している業者がいる。店頭に「半額」と大きく張り出し、実際にほとんど定価の半額で受け付けている業者がいる。それなのに、なぜこの業者だけが摘発されたのだろうか。

 ちなみにこの業者は今まで問題らしい問題を起こしたことのない真面目な業者である。日本中の業者が今も違法操業を続ける建築基準法違反問題も、この業者の違反はない。当NPOが目を付けるような札付きのブラック企業なら話はわかるが、なんでこの業者が摘発されるのか皆目見当が付かない。

 私は岩手県に行き、この業者と会ってお話を聞いた。すると、摘発に当たっては何の前触れもなく、いきなり消費者庁と公正取引委員会から連絡が来て、同社のチラシを持参し、「こういうことをやってましたね」といわれたという。あまりに唐突な行政の登場だった。

 驚いたのは、行政の調査がなんと1年2ヶ月もの間続いたことである。そんなに長期間続くとは、まるで嫌がらせである。はっきり言って事務所は仕事にならないだろう。そして違反とわかると、今度は新聞各社に謝罪文の掲載を命令されたという、新聞の謝罪文は特殊広告といい、値段が高い。結局70万円もの金額を、自らの問題を公表するために払ったのである。

 日本中の業者がみんなやっていることを、この業者だけが摘発された。しかも非常に厳しい仕打ちだった。この会社よりはるかに規模の大きい業者がもっと派手にやっているのに、なんでもない業者だけがひどい目に遭った。一罰百戒という言葉があるが、これはあまりにも不平等ではないか。平等原則に反する。なぜこんなことになったのか。

 

その後の摘発は皆無

 クリーニング業者が景品表示法違反で摘発された―――このニュースは業界中を駆け巡った。摘発された業者がやっていたようなセールはいつ、だれが摘発されてもおかしくはない。業界団体では早速これについて対策をすべくいろいろなことが行われた。大阪では弁護士を招いて勉強会が行われ、東京では業界団体が消費者庁の職員を呼んで講演会を行った。大阪では参加していた業者が弁護士のお話が終わった後、「それじゃあ、ここにいる業者はほぼ全員がみんな違反だ!」と漏らした。実際その通りだと思う。

 しかし、その後他の同業者が摘発されたという話は全く聞かない。一時は大騒ぎだった当業界もその後の敵は継がないので騒ぎは沈静化、元に戻った。日本中の安売り業者は相も変わらず店頭に「半額」と張り出し、一年中半額セールを続けている。新店が開店すれば一年以上「開店記念半額セール」が続いている。新型コロナウイルスが流行すれば、下がった売上を取り戻そうとますますセールに拍車がかかる。

 行政はクリーニング業界の違反のあまりの多さに度肝を抜かれ、これは大変と尻込みしたのだろうか?これではたった一社、岩手県の業者だけ貧乏くじを引かされたことになる。あまりにも不平等であり、気の毒だ。

 もしも自由に悪いこと、違法なことをしていいという業界があるなら、悪いことをした方が市場の勝者になるに決まっている。こういうことは他にもあるのだろうか?

 この件で腑に落ちないのは、業界から講演をしてもらうなどして消費者庁にアプローチしているのに、消費者庁から業界への呼びかけが皆無であることだ。あなたたちは違反が多いようだから、注意して下さいといってもらうだけで、違反は減り、だいぶ落ち着くだろう。それをせず、ただ一社だけを徹底的に攻撃するのはなぜか。何か意図があってそうしているのではないか。

 

疑われる政治の関与

 クリーニングの世界では、2009年に建築基準法問題が発生している。クリーニングはドライクリーニングに引火性溶剤を使用するが、建築基準法では商業地、住宅地では使用できない。しかし人の多く集まる商業地、住宅地に工場兼店舗を開店すれば利益性が高い。行政に虚偽申請しながら次々と違法な工場を建てていた大手ブラック企業が摘発されたが、実は業界の多くの業者が同様な違法状態であることが発覚、業界は大騒ぎになった。

 しかし、国土交通委員会で「クリーニング屋さんがかわいそうですよ」という議員が登場、業界挙げての不正行為はうやむやにされた。現在でも全体の4割強の業者が開き直って違法操業を継続している。特に、厚生労働省が認可した生活衛生同業組合の業者に多い。これは遵法業者からすれば甚だ不愉快な状況である。

 これは、政治とのパイプがある業者が違法行為をしていても、それは許されるという証明だ。業界団体の「」をアテに、政治が介入して不正がまかり通る。それがクリーニング業界の実情だ。

 2012年、東日本大震災の後で、厚生労働省認可のクリーニング団体、全ク連は、被災した沿岸地域にクリーニング仮設工場を建設する計画を発表した。しかし現実に、この予算は岩手県の生同組合理事長の工場の建て直しと、同県北部の業者のドライクリーニング洗濯機にしか当てられなかった。これは、岩手県が突出して当業界では政治力を持っていることを示している。岩手県は東北で唯一、四人の総理大臣を輩出したお土地柄。そういう考えで今回の景品表示法問題を考察してみると・・・。

 今回摘発された「岩手の業者」は、実は青森県から進出してきた業者だ。長男が家を継ぎ、次男が岩手に出て同じクリーニングを始めた。

 岩手県は、よくいえば自主独立的、悪くいえば排他的な風土がある。何事も県内で自主完結できる力がある。各地に進出する業者も、岩手県だけは出てこなかったりする。私の知る限り、大変自然豊かでいいところだが、もし商売で進出ともなれば違う展開になるのかも知れない。新型コロナウイルスでも感染者が日本で一番最後まで出なかった事実が、この地域の閉鎖性を裏付けている。

 摘発された業者は、地元岩手県からすれば「よそ者」である。どちらかといえば低価格業者なので、そういう業者の進出を同業者は嫌う。この業者の進出を快く思わない地元業者が、政治力を使って行政を動かしたとしたら・・・。

 これは仮説だが、そうでなければ、この不可解で不平等な摘発は説明できない。日本中みんな違反しているのに、岩手県でだけ摘発されたのは納得できない。何か特別な力が働いたとしか思えない。

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 岩手県の不自然な復興予算の使い方をしたことを糾弾する週刊ポストの記事

これぞクリーニング・シロアリ 嘘と欺瞞の仮設工場 | 株式会社セルクル代表取締役 鈴木和幸のページ (cercle.co.jp)

 岩手県のクリーニング仮設工場疑惑に関してはこちらのサイトをご覧下さい。

 

心配な特措法

 日本のクリーニング業界は建築基準法、景品表示法、消費者契約法など明らかに法に触れると思われる行為が多くの業者の間で行われている異常な業種である。原因は古すぎる法律の不備、業界のシェア大半を占める大手業者を全く無視した団体運営、政官業の癒着などがあるが、監督官庁、そして政治がこの現実に目を向けていないことがもっとも大きな理由である。

 このように百鬼夜行の業種では、まわり一面反則行為ばかりしているので、どこの業者もそれに合わせなければやっていけないかもしれない。しかし政治の力が入り、狙い撃ちするように一部の業者だけが摘発されたのではやっていけない。あまりにも不平等である。

 これを他の世界に目を向けると、コロナ禍で決議された特措法も、クリーニング業界と同様な運用がされれば大変なことになるだろう。

 飲食業界もクリーニングと同じように生活衛生関係営業に属する業種である。麺類(そば、うどん)販売業、すし店、喫茶店、中華料理、日本料理、その他料理店、そしてバーやスナックなどの社交飲食業などに法律で細かく分類され、それぞれに生活衛生同業組合がある。そしてクリーニング同様まとまりがなく、多くの業者が生活衛生同業組合には属さないで営業している。

 このたびの特措法ではコロナを抑えるため、飲食店に営業の自粛や営業時間の短縮を求め、従わなければ罰金を科すという。最初は刑事罰もあり得るなど恐ろしいものだったが、行政罰だけになった。それでも罰金が発生するなど厳しい処置である。

 この特措法に関し、クリーニングで起こっていることがそのまま飲食業で起こると考えてみよう。

 現在、飲食業は緊急事態宣言が出ている地域であっても、営業時間を午後8時までとしている業者が多いとは思えない。そういう業者を政官とつながりを持つ限られた業者が狙い撃ちして摘発したら、次々と罰金を払わせられる店が出てくるだろう。一部業者の私的な感情やクリーニング業界同様のねたみ、やっかみで業者を摘発したら、飲食業界は大混乱に陥るだろう。

 コロナ以前も、法律や条令に従わない業者は山のようにいた。接待飲食業の閉店時間は午前0時だが、それ以降も営業している業者はしていない業者よりも多い。ではそれを一律で摘発するかといえば、限られた業者だけが何かの力が働き、摘発されている。

 もしコロナが今後も収まらなければ、クリーニング業界同様、特措法による不平等な摘発が起こるだろう。法律が平等ではなく、独裁国家のように勝手に解釈され、気に入らない業者のみが摘発されるのであれば、それはまさに恐怖政治である。あまりに不平等な社会、正解に近い業者のみが潤う社会は勘弁してもらいたい。

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生活衛生関係営業の業種はこのようなもの(生活衛生営業指導センターのHPより)