クリーニング屋は「かわいそうな人たち」・・・断ち切れない業界のイメージ
「ビートたけしのTVタックル」5回目の出演
2020年7月19日、この日放送された「ビートたけしのTVタックル」に当NPO代表が出演しました。通算5回目です。といってもコロナ禍の東京のスタジオに行くわけにもいかず、リモート出演でした。実はこの日、自宅のリモート機材が不調でおかしな音声になり、話しても妙にモアモアした音にしかならず、十分伝わりませんでした。それでも放送では編集され、何事もなかったかのようになったのですからスタッフの技術はたいしたものです。
番組では新型コロナウイルスの中、クリーニング業界がどのようになっているかが表現されました。クリーニングは需要の季節変動が激しく、4月が一番の繁忙期ですが、4月2日のタイミングで非常事態宣言が出されたため、稼ぎ時で需要がダウン、これが大きなダメージとなりました。人が外出せず、会社にも行かないのでスーツ、ワイシャツなどが出なくなり、どこも大変です。番組ではこの問題の他、外国人技能実習生についても若干触れました。
金子恵美氏の発言
今回は元衆議院議員の金子恵美氏が出演しました。番組ではカットされましたが、クリーニングについて、「重要が下がって大変でしょう」、「みんな苦しいんでしょ」といった、クリーニング業者からするとマイナスな話が出てきました。これには驚きました。
初対面で、相手の職業のマイナス部分ばかりを言われたらあまり嬉しくはありませんが、よく考えればおそらくこういうことだと思います。金子氏は議員でしたから、議員時代のクリーニングの話題といえば、厚生労働省認可の全ク連(全国クリーニング生活衛生同業組合連合会)のことしか聞かされません。全ク連は零細業者の集まりで、いつも、需要ダウン、零細で貧しいといったマイナスのことしかいいません。そうなると、政治家はクリーニング業者とはそういうもの、というイメージを持ちます。つまりクリーニングの側からマイナスイメージを政治家に植え付けているのです。
政治家は出てくるたび、クリーニングや他の生活衛生関係営業の職種に対し、「かわいそうな人たち」という言葉を繰り返します。これは、昭和32年に施行された生衛法のイメージです。当時はクリーニングや飲食業など生活衛生関係営業はみんな零細業者しかいなかったので、それで良かったのですが、現在では全ク連などは市場シェアの1,2割程度であり、8,9割は全ク連以外の大手業者のものです。「かわいそうな人たち」はかなりの少数派です。そうなるとこれはもはや全く事実ではありません。
ある政治家の選挙用パンフレット。クリーニング業は市場シェアの8,9割が大手であり、飲食業は全国チェーンの上場企業がたくさんある。「多くが小規模事業者」は事実でない。生衛法の趣旨を無理矢理刷り込んでいる。
全ク連と政界の相互依存
金子氏は政界を引退したので関係ありませんし、金子氏は何も悪くはありません(むしろ理知的で聡明な女性です)が、政界と全ク連は相互依存関係にあります。全ク連は零細でかわいそうな業種ということで毎年助成金、補助金をもらい、政治家はその見返りに選挙では票をもらうのです。毎回選挙が近づくと、生活衛生同業組合には「次の選挙はこの人を応援して下さい」と推薦状が廻ってきます。
全ク連が業界の大半のシェアを持つのであればいいのですが、現実にはほんの一部です。政治家は自らの利益のために他の8,9割を顧みず、限られた人々のみ優遇しています。全ク連もそれを応援する政治家も自らの利益のため、現実を無視しています。
またもう一つの弊害があります。生衛法は「かわいそうな業種の人たちを救済する」という趣旨があるため、クリーニングがいつまで経ってもイメージが良くならないのです。「かわいそうな人たち」といわれて、後を継ぎたいと思う人がいるでしょうか?これでは業界人が希望を持てません。業界の将来を考えた場合、これは何とか払拭したい課題です。
選挙が近くなるとこんな推薦状が各地のクリーニング生活衛生同業組合に廻ってくる。
ブラック企業の登場
政治家がクリーニング業界のごく一部の零細業者としか会わず、大半の業者を放任した結果、何が起こったかといえば・・・。
それはブラック企業の登場です。行政が全くタッチしないため、各業者はやりたい放題になり、反則やり放題の市場となり、悪いことをすればするほど儲かるようになります。
今やどこのクリーニング店も一年中セールを行い、半額セールを連発しています。半額で預かる方が定価で預かるより多いのです。新規オープンの店は一年以上半額セールが続きます。これらは景品表示法に抵触します。
最初にビートたけしのTVタックルに出たとき、スタッフからの要望もあり、最初からしみ抜き料金を取る行為について消費者契約法に触れる可能性を示唆しました。放送されると業界は大騒ぎ。このような行為は昔はなかったものの、今は大半の業者がやっています。良貨は悪貨を駆逐するのたとえ通りです。
クリーニング業界の労働環境は劣悪なところが多くなっています。昇給、賞与のある会社は探すのが難しいくらいです。残業代を払わなかったり、ひどい会社は事故品を従業員に賠償させたりします。まさにブラック企業です。クリーニング業界では労働基準法違反が当たり前になっています。
政治家が業界のごく一部の業者だけを相手にし、他は放置。結果としてブラック企業が勃興するのでは、日本特有の問題といえるブラック企業問題は、政治家、とりわけクリーニング議連の責任ではないですか?
クリーニング業界で一番深刻な問題は労働問題です。政治家が一部の零細な業者しかみていないため、クリーニング会社で働く多くの作業員、店員たちは残業代が出ない、猛烈な作業の押しつけなどで苦しんでいます。これを全く無視しているのは卑劣です。
政界からの口利き疑惑(建築基準法問題)
2009年、クリーニング業界最大手二社が建築基準法違反で摘発されました。建築基準法では、住宅地、商業地での引火性ドライクリーニング溶剤使用を禁じています。しかし、人がたくさん集まる住宅地、商業地で工場兼店舗(ユニットショップ)を稼働すると利益性が高いとわかりました。そこで、行政に嘘をついて進出する挙に及んだことは誠に悪質です。
ところが、この建築基準法違反は業者の規模の大小にかかわらず、業界中に広がっていたことがわかりました。多くの業者が違法と知りつつ、この不正に手を染めていたのです。中には倉庫で申請して後で工場にしたなど、悪質な事例も次々出てきました。
この問題は発覚から10年過ぎても未だに全体の4割強が違反状態のまま操業しています。違法操業を行政が見逃すのはおかしいですが、生活衛生同業組合の業者らもかなりの数が違反状態にあることから、これには政治が行政に関与し、違法操業を指導させないという疑惑もあります。違法操業を政治力で見逃させているなら口利きです。クリーニング議連はそんなことをしているのでしょうか。
全ク連が傘下のクリーニング生活衛生同業組合に上納金値上げを要請したときに配られた用紙。法律違反状態を「長期猶予」してもらっているのは自分たちであると明言している。行政に働きかけ、そんなことができる人は・・・
クリーニング議連は目を覚ますべきだ
一部の業者だけを優遇するクリーニング議連の姿勢は、改めてもらいたい。また、票を当てにしているのかも知れませんが、別項にもあるように、実は現在では全然票になんかなりません。そこもよく理解していただきたいです。ともかく、クリーニングはかわいそうな人たちというイメージを早く払拭しなければなりません。
クリーニングと政治に関する問題はこちら
http://npo.cercle.co.jp/?p=784