保管クリーニング問題の課題
問われる顧客への説明責任
2017年11月8日付の朝日新聞夕刊。一面で保管クリーニング問題が取りあげられている。
2017年11月8日、保管クリーニングの問題が朝日新聞で取り上げられた。多くの業者が行っており、特に都会で需要が多い保管クリーニングの実態を詳しく解説し、そのあり方について説明したい。
大変大きな報道
マスコミによる報道は、クリーニングの話題としては久々に大きなものとなった。11月8日、朝日新聞夕刊がこの問題を取り上げたが、東京、名古屋では一面に報道され、大阪、九州ではなんと一面トップ記事となった。夕刊ではあるが、クリーニングの話題がトップ記事になったのは、2009年12月、クリーニング業界の建築基準法違反問題以来のことである。
朝日新聞の報道では、「保管クリーニング、すぐには洗わず」の見出しで、業界大手業者で遅配トラブルが発生しているとし、その上で、クリーニング業界で需要が増えつつある保管クリーニングに関し、繁忙期である4,5月に品を集め、実際にはすぐには洗わずにおき、閑散期の7,8月当たりから作業に係るシステムについて説明している。
「お客様のタンス代わりに衣料品を保管します」というサービスは、実は多くの場合、クリーニング業者の作業調整という「都合」によって行われており、作業の平準化、人手不足対策が最大の目的であったといえるだろう。
朝日新聞はネット宅配クリーニングを行う複数の業者や関係者にも取材し、衣料品を放置すればシミが落ちにくくなるなどの弊害を記し、この方法の問題点を指摘している。多くの顧客にこの真実を知らしめたという意味で、大変意義がある記事であった。なお、この問題はテレビでも報道され、そこで知ったという消費者も多い(ただ、テレビの報道は浅く、トラブルの事実だけが放送された)。
顧客への説明が成されていなかった
今回の問題は、やはり大手業者の遅配トラブルに端を発している。期日になっても品が届かないという苦情が相次ぎ、問題が表面化したのである。もし、納期遅れの問題が発生していなかったら、「保管クリーニング」の秘密というメカニズムは、誰にも知られることなく、その後も継続していたかも知れない。特に、半年間作業しなかった品があったことが報道されているが、そうなるともはや「保管」ではなく「放置」としかいいようがない。これでは、建築基準法問題のときと同様、大きく報道されても何も弁解できないだろう。
この問題に関しては、「保管クリーニング」と呼ぶやり方が、それを利用する顧客に全く説明されていなかったことが一番の問題である(一部業者はHPで説明している)。せめて、「すぐ洗うわけではありません」とでもいうべきだったのではないか。大半の顧客が、宅配分で送るとすぐ洗い、後は返還時期まで保管されていた・・・と誤認していたと思われる。「クリーニング業者の都合で、2ヶ月くらいはそのままで、夏頃に洗っている」と知っていた客が果たしていたのだろうか?
クリーニング業者の「甘さ」
だが、この「保管クリーニング」は一部の業者だけの問題ではない。多くの業者が同様な方法で品を集めていたことは事実である。
クリーニング需要は年間で大きく変動する。特に、春先は一年で一番のピークとなり、冬物のコート、オーバー、ジャンバーなどが4,5月に集中する。これらを閑散期である夏頃に作業すれば、仕事はかなり楽になるだろう。「保管クリーニング」は、クリーニング業者にとって、繁忙期と閑散期の差を緩和する素晴らしい方法だったのである。
しかし、衣類にとって、汚れを一定期間放置するのは芳しいことではない。そういった事実を説明せずに、ただ「同業者がみんなやっているから」と手を出したのはまずかった。クリーニング業者達も、この方法が全く問題のない、素晴らしい方法だと思っていたわけではないだろう。後ろめたさもあったはずだ。それを、「みんながやっているから」と安直に始めるのは「甘い」といわざるを得ない。
なおこの問題に関し、出荷遅れの業者だけを槍玉に挙げ、「あんなのと一緒にされては困る」と主張する業者もいるが、これこそが「甘い」の典型だろう。最初はおそるおそる始めたことでも、中にはおおっぴらにやらかす業者が登場してくる。そういう業者が問題を起こして世間を騒がし、「みんなやってるじゃないか」と業界中に広がることは、建築基準問題で経験済みではないか。
これまであまり話題にはならなかったが、消費者は保管契約を途中解約する権利がある。すると、4月に出して11月に受け取る予定だった品を、客が「7月に解約するのですぐ受け取りたい」と要望した場合、クリーニング会社はそれに従わなければならない。各業者は、そういう問題を考えに入れてこの保管クリーニングを開始したのだろうか?
顧客への説明責任を明確に
おおよそ、クリーニング業者は一般マスコミを好まない。マスコミがクリーニングを取りあげるときは、たいてい悪い話題であるからだ。しかし、多くの奉仕者が利用する職業である以上、現実から逃げ通すことはできない。
近年、こういう業界問題が一般マスコミで取りあげられるとき、業界全体で知らぬフリを決め込む傾向がある。なにかの問題が新聞で取りあげられてもテレビで話題になっても、業者間の話題になることはあっても、業界団体で討議されたり、3つある業界マスコミがそれを記載することもない。結局、業界全体でダンマリを決め込み、嵐の過ぎるのを待つのである。そんな態度では、業界の未来はない。当NPOがマスコミで取りあげられる機会が多いのは、誰も伝えようとしないクリーニング業界の実情を当方が伝える役目を負っているからともいえる。
保管クリーニングを定義づけるなら、表は「顧客の衣料品を顧客に代わって保管するサービス」だが、クリーニング業者にとっては「煩忙期と閑散期の差を縮め、4,5月に集まる冬物衣料品を夏頃に作業し、作業の均等を図って会社運営を円滑にするシステム」ということになる。そうなるとこれは当業界に多い「裏ノウハウ」といえるかも知れない。裏ノウハウなら、「最初からシミ抜き料金を取る方法」などと一緒である。
やはり、私たちは消費者ともっと身近になり、私たちが行うサービスに関してもっと情報を伝え、ウソのない仕事をするべきではないか。毎回毎回、なにかのことがバレた!またか!などとやっていたのでは、あまりにも顧客に失礼ではないか。すべての業務に関し、顧客への説明責任を明確にし、あやふやな行為は行うべきではないだろう。
保管クリーニングに関しては、こちらもご覧下さい。
http://npo.cercle.co.jp/?p=559