クリーニングの賢い利用方法(2018年度版)
安心して冬物衣料をクリーニングに出すために
かなり前から、消費者向けにクリーニング利用方法のウンチクを表した冊子やサイトがあります。どなたもクリーニングを上手に利用したいとお考えだと思いますが、現在はクリーニング業界の状況も以前とだいぶ変わっており、現在の業界を反映したものが必要でしょう。そこで、ここでは2018年現在のクリーニングの理想的な利用方法を記載してみました。今までのものとはだいぶ違いますが、現在はこの様な感じです。ぜひご活用下さい。
繁忙期のクリーニング利用
クリーニングは年間で4,5,6月が最も急がしい繁忙期となります。冬物衣料品がたくさん持ち込まれるからです。この時期はどこの業者も忙しくしています。
こういう時期をずらし、夏頃まで衣料品を出さないで放っておく人もいます。閑散期にはセールが頻繁に行われるので、それを待っているお客様もいます。いい方法のように思われるかも知れませんが、これはやめた方がいいでしょう。シミや汚れは、時間が過ぎると落ちにくくなります。病気と同じことです。衣料品のためには、セールを待つよりは、早めにお持ちになった方がいいでしょう。
消臭スプレーは要注意
若い方の中に、スプレー式消臭剤をかけただけでタンスにしまう人がいますが、これは絶対に避けた方がいいです、こういった消臭剤を販売するメーカーは、「○○○○で洗おう」などと、いかにも洗う効果があるように宣伝していますが、あれは臭いをごまかしているだけで、衣料品には最悪です。放置すれば、衣料品はシミや汚れ、虫食いで着用できなくなる可能性もあります。「臭いのゴマカシ」と「クリーニング」は違います。その点はよく注意しましょう。
おまとめセールの注意
クリーニング各店はどこでも「3枚でいくら」、「5点あつめて○○円」といったセールを行います。「袋に詰められるだけ詰めていくら」といったものまであります。こういうセールをお客様の側から見ると、「そんなにたくさん集めて、手を抜くのだろう」などと考えがちですが、そんなことはありません。
どのような方法で集めたとか、いくらで受けているという情報は工場担当者には全く伝わっていません。工場では集められた品を作業員が淡々とこなすだけです。セールだから品質が悪くなる、というのは単なる風評です。心配はいりません。
ただ、一年中半額で受けるとか、一年中セールの連続などとなると、それ自体違法である可能性が強く(消費者契約法、景品表示法など)、工場の生産限度を無視して集めているような会社もあるので、注意が必要です。
慢性的に納期遅れする店
繁忙期になると、通常のときよりも品がたくさん集まりますから、ときには「納期遅れ」が発生する場合があります。「11時お渡し、6時お渡し」といった看板の店でも、品が6時に間に合わず、7時、8時ということになります。通常の会社では、遅れる旨を各店舗に知らせています。
ところが、納期を店員に知らせない会社があります。店員はすいません、すいませんと謝るのみです。こういう会社はもとより生産計画のない会社です。宣伝広告費ばかりかけ、工場など生産部門を軽視しているところです。
クリーニングは生産直売のような商売です。お店でたくさん品を預かっても、工場でさばけなければ意味がありません。工場に全然余裕がないのに、売上だけを上げるためにたくさん集めすぎ、工場がパンクするという会社の話を聞きます。こんなのは失格です。
2017年5月に「ビートたけしのTVタックル」に当方が出演した際、番組では手抜きクリーニングの実態を放送しました。実は、手抜きクリーニングはこのように生産計画がない、あるいはおろそかにしている会社で発生します。あの番組の後、社内に「短縮クリーニング」していないか、などと業務連絡した会社もあります。実際彼らのいう短縮クリーニングがあったそうです。
繁忙期といえど、店舗になんの連絡もなく、慢性的に納期遅れする会社は生産計画がない会社です。こういうところではテレビで放送されたとおり、「手抜きクリーニング」が発生しやすくなり、品質も期待できません。
追加料金の秘密
現在のクリーニング会社は多くが「安く表示して、追加料金を取る」という手法を取っています。いろいろな方法で追加料金を取ろうとします。ワイシャツに色が付いていたら30円増しとかエリが汚れていたら○○円追加とかですが、これらの中には景品表示法など法律に触れるものも多く、当NPOが指摘すると止め、また新しい方法を開始するなど、いたちごっこが続いています。クリーニング業界にはこういう追加料金の取り方を教えるセミナーなども存在し、ノウハウを共有するグループなども多くあります。
納得がいく追加料金ならわかりますが、店頭に安い価格を表示して、客が店に入ると、「これはこうだから○○円追加」など、次々と追加料金を取るような店は信用できません。
効果のない加工
クリーニング業者が顧客から追加料金を取る手段として一番ポピュラーなのが加工製品です。以前より防水加工(撥水加工)、折り目加工、デラックス加工などがあり、現在最も顧客の注文が多いのが「汗抜き加工」です。洗うだけでなく、衣料品に付加価値を付けること自体は問題ありません。
しかし、加工が10種類以上もあったり、1枚の衣料品に3種類もの加工を勧める店もあります。ここでは、それら加工について、料金を払っても、効果があるのか疑わしいもの、一度考えて欲しいものを列記しました。
○柔軟加工
衣料品の風合いを良くする柔軟加工はいろいろな名前で各社が宣伝していました。しかし、たいていは無料であり、有料にする所はほとんどありませんでした。この加工は加工剤をドライクリーニングの溶剤の中に入れる(チャージする)ので、結果的に全品加工されることになり、従って追加料金にはならないのです。溶剤の中に加工剤を入れる目的は、衣料品の風合いの他に静電気を防止して事故を防ぐ火災の防止という意味合いもあります。
これを追加料金で取るには、さらに加工剤を噴霧するのでしょうが、たいていの業者は料金の範囲内で行っており。追加料金にしている業者は希です。
○防虫防菌加工
防虫防菌も柔軟加工と同様で、溶剤自体に薬剤を入れるのが普通です。「細菌を殺す」ということは、人体にも害がある場合があり、追加料金を取る業者にはどんな薬剤を使用しているのか確認することが必要でしょう。クリーニングの場合、法規制がなく、業界内に自制する動きもないので、注意する必要があると思われます。
○デラックス加工
多くの業者が「高級品には高級品なりの仕上げを・・・」ということでデラックス加工という名称に代表される「ハイクラス」なコースを設定しています。
これは昔から問題になっており、「包装材を換えただけ」などの内幕暴露が行われたこともあります。専門の担当者がいて、一般品とは違うことをして、というのならわかりますが、一般品と同じく洗い、通常の担当者が「ちょっと丁寧に」仕上げるくらいでは、高いお金を払う意味はありません。
勧められたら、「どのように一般品と違うのか」と説明をさせるといいでしょう。シドロモドロになるならやめましょう。仕上がった品を確認することも重要です。
○Wクリーニング
最近、ワイシャツに「Wクリーニング」を勧める店が多くなりました。ワイシャツは水洗いするものですが、ドライクリーニングをした後に、本来の水洗いをすることにより、油汚れも落とすという触れ込みです。
Wクリーニング自体は昔からありました。1960年代頃、高度成長期の日本には工場で働く労働者の作業着をたくさん預かり、Wクリーニングでキレイにしていました。
しかし、それをワイシャツで行うというのには疑問があります。ワイシャツは強力な洗剤と漂白剤で高い温度で洗います。洗浄力が一番強い洗い方です。わざわざドライクリーニングしなくとも、十分に汚れが落ちます。一度実験してみましたが、エリ汚れなどほとんど差がありませんでした。
どうもこれは、クリーニング業者の単価アップという色合いが濃い手法です。もし、店員にワイシャツのWクリーニングを勧められたら、一着だけお願いし、一般品とどんなにちがうか比べ、あんまり差がないなら断った方がいいでしょう。
ワイシャツはクリーニング店が一番たくさん預かる品です。地方では全体の3割程度、都会では5,6割がワイシャツという店があります。それでいて価格競争により単価が安いので、こんな方法が出てきたのでしょう。(ただ、ごく希に極端な脂性の人で、これは効果があるという場合もあるので、猛烈な脂性の方には有効かも知れません。)
○折り目加工
主にズボンの折り目を取れにくくする「折り目加工」は、国際羊毛事務局がリントラク加工、シロセット加工という二つの加工を認可しています。これら加工を管理する団体もあり、普及活動が行われています。こういう加工なら安心です。
ただクリーニング業者の中には、市販の折り目加工の薬剤を使用し、通常のズボンプレス機で、加工剤をちょっと噴霧してプレスするだけ、というところもあります。これがどの程度効果があるのか調査してみたら、全然ダメ、という結果が出たこともあります。
接客態度のやたらいい店に注意
これはクリーニング業界に新しく登場した問題です。
お客様がクリーニングを利用する際、クリーニング業者側でお客様と接するのはいつでも「店員」です。工場作業員や経営者が会うことは滅多にありません。店員は会社の顔なのです。店員の受付態度が良ければ、その店は繁盛します。そのようなことから、各クリーニング会社は接客の向上に力を入れています。クリーニング業界には接客の先生がたくさんいて、あちこちで店員の講習会が行われています。近年、特にその傾向が強まっています。
接客が良くなり、お客様の印象が良くなるのはいいのですが、「接客さえ良ければ・・・」と考える業者も出てきても不思議ではありません。現に、店員が客から次々と追加料金を取る手法は各業者によって定着しています。接客の良い店員が、単価を上げるため意味があるかどうかわからない追加料金を取っている店もあるわけです。これは店員が悪いというより、そういう指示をしている会社の側に問題があります。
接客態度がいい店員、とても感じのいい店員が、常に正しいことをいっているとは限りません。現在では接客態度が妙にいい店員は、むしろ警戒した方がいいかも知れません。
クリーニング業界には接客の先生がたくさんいて、いつも講習会が行われている。
やり直しに快く応じてくれる店
クリーニングはスピードに追われる職業です。品がたくさん集まる繁忙期には、シミや汚れの見落としなどなにかのミスが発生することは十分考えられます。特に、シミが落ちていない場合には、担当者が見落とした場合も十分に考えられます。
そういう職業なのですから、もし何らかの不具合があったときにはすぐに応じなければなりません。ところが、やり直しを要求すると、追加料金を請求する業者がいます。やり直しにはすぐ応じるのが当然で、そういう業者を選ぶべきでしょう。工場がミスをしているのに、お金を払わされてはたまりません。
有料シミ抜きの問題
当NPOが以前より問題視しているのが、店員が最初からシミ抜き料金を取る手法です。以前はなかった方法であり、消費者契約法に抵触する恐れがあります。お金を払ったのに落ちない、という苦情も多くあります。
http://npo.cercle.co.jp/?p=526
しかし、簡単に追加料金が取れることから業界に定着してしまいました。クリーニングは「赤信号、みんなで渡れば怖くない」の論理が簡単に通用してしまう世界です。消費者側としては、せめて、落ちなかったらお金を返すことを要求するべきでしょう。
一ヶ月以降は苦情を受け付けない?
クリーニング業者の約款に「一ヶ月過ぎたら苦情は扱わない」と書かれているものがあります。業界の標準約款には苦情の申立は顧客が引き取ってから半年、とあり、一ヶ月はあまりにも短いです。
これは、業界で密かに流行した裏ノウハウです。苦情を受けるのを避けるため、こんなことをする業者もいます。行政指導でだいぶなくなりましたが、いまだにこんなことをしている業者もいます。
勿論、これは論外です。
保管クリーニング
2017年11月に発覚した「保管クリーニング問題」は、クリーニング業界で流行していた保管クリーニングの実態を暴露しました。
「夏の間、冬物衣料品を保管します」というのは、クリーニング業者の繁忙期対策である場合がほとんどです。預かった衣料品は少なくとも1,2ヶ月は放置されます。ひどい業者はそもそも「保管」などせず、引き渡す直前になるまで全く放置していたこともわかっています。
この事件があったので、保管クリーニングをする業者は激減すると思われますが、消費者としては、もし利用する場合、
○すぐに洗うわけではないことを理解すること。
○約款に、「予定日より早くの引き渡しには10日以上かかる」などと書かれている業者は注意すること。衣料品が放置されている可能性があります。
○HPに保管ルームなどの写真が載っていても、事実でないことがあるのを理解すること。
2017年11月に保管クリーニングの実態が暴かれ、ひどい業者は保管などせず、放置していた品があったことが暴露された。保管クリーニングには要注意である。
この様なことを十分把握して利用することをお勧めします。