最初からシミ抜き料金を取るクリーニング店について

最初からシミ抜き料金を取るクリーニング店について

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  お客様がクリーニング店に洗濯物を持ち込むと、まず店員が検品を行います。

 そこでシミを見つけると、最初からシミ抜き料金を徴収する店が増えています

 しかし、これは大きな矛盾があり、法律にも触れる恐れのある行為です。この問題について、説明していきます。

 

 シミ抜き料金への苦情

  最近、クリーニングのお客様から、「シミ抜き料金を払ったのに、シミが落ちてこなかった」という苦情が多くなっています。

 5月14日に放送された「ビートたけしのTVタックル」に出演させていただきましたが、複数の芸能人が、「料金を最初に払ったのに落ちなかった」と話していました。この問題は、芸能人でもおかしいと思っていることがわかりました。

 確かに、近年、多くのクリーニング店では、店員が検品のときにシミを見つけると、「あ、ここにシミがありますね」と最初からシミ抜き料金を徴収する行為が主流になっています。

 しかしながら、クリーニング店員には、シミが落ちるか落ちないかを判断する能力はありません。

 これが、「金を払ったのに落ちなかった」という問題が発生する原因になっているのです。

 

 クリーニング作業の三要素

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 クリーニング工場の仕事には、大きく分けて、洗い、仕上げシミ抜きの三要素があり、これらを3つまとめて「クリーニング」という仕事になっています。 

洗い

 汚れを取り、細菌などを取り去るため、衣料品を洗うこと。クリーニング店での洗いには、水洗いとドライクリーニングがある。ウール、絹など、水洗いをすると縮む素材の品は、ドライクリーニングを行う。 洗った品は、その後に乾燥させる。 

仕上げ

 洗った品を見栄え良く整形するために、アイロンによって仕上げる作業のこと。プレスとも呼ばれる。現在は効率のいい仕上げ機が発達し、生産性も向上している。 

シミ抜き

 衣料品に付いた異物を取り除く作業のこと。多くは洗った後に行われる。洗っただけでは落ちなかったシミ、汚れがあったときに行われる作業である。 

 明治時代、日本にドライクリーニングの技術が伝わり、クリーニング業者が登場して以来、「シミ抜き」は特別な場合を除き、クリーニング料金の範囲内の仕事でした。

 

 最初からシミ抜き料金はおかしい

 「最初からシミ抜き料金」の流行

 10年ほど前から、クリーニング店で、店員が客から品を受け付けるとき、シミを見つけたら、「あ、ここにシミがありますね」と、最初からシミ抜き料金を取るようになりました。

 しかし、これは矛盾のある手法です。 

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 最初にシミ抜き料金を取ると、本来は料金のかからないものからもお金を取る矛盾があります。後払いなら話はわかりますが、最初からシミ抜き料金を取るのはおかしい話です。

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 クリーニング作業工程の中に、しみや汚れを落とす行程は3カ所あり、洗っただけで落ちるシミもあり、作業をしていないのに追加料金がかかるのはおかしな話です。

 

 消費者契約法に抵触

 この問題について、弁護士に聞いてみたことがあります。結果は、最初からシミ抜き料金を取る行為は消費者契約法に抵触する疑いがある、とのことでした。

同法第4条第1項は、事業者が事実を異なることを告げたり、確実な事項につき断定的判断を提供することにより、消費者が誤認した場合、取消権を認めています。したがって、シミが落ちることを前提としたシミ抜きの追加料金は、不確実な事項につき断定的な判断をしたことになりますから、取り消されると料金を返納しなければなりません。最初からシミ抜き料金を取れば、お金を払えばシミは取れると消費者は認識するので、この法律に抵触する恐れがあります。

 同条2項は、事業者が消費者に不利益となる事実を故意に告げなかったために、消費者が誤認したときも取消権を認めています通常の洗い方で落ちるシミにあえてシミ抜きの追加料金を取るのは、この2項に該当します。この様な理由から、この行為は違法であるといえます。

 

 シミ抜きの専門家と、現役従業員の声

 クリーニングには、シミ抜きだけを専門に行う「シミ抜き業者」が存在します。クリーニング業者が自社で落とせない場合、そのような業者に依頼する場合があります。その業者にこの問題について聞いてみました。

専門家は「後払いにするべき」との意見

  クリーニング業者にシミ抜き技術を教えている専門家に聞いたところ、やはり、前払いのシミ抜き料金はおかしいとし、「私たちのような専門家でも、シミを見ただけでは落ちるか落ちないかを判断するのは難しい。私は後払いにするようにと指導している」とのこと。

 専門家でも難しいことを、シミ抜きの経験が全くない店員が判断するのは明らかにおかしいです。

 クリーニング店員の声

(シミ抜き料金を取らされている会社の店員) 

○シミ抜き料金を取っても、落ちてこないときがある。毎日忙しく、工場も時間がないので、現実にはシミ抜きなどやってないのだと思う。

低価格で大量生産の工場ではシミ抜きにあまり時間をかけない会社も多く、結局金を取っても十分なシミ抜きが行われているとは思えません。時間で仕上げるクリーニング店で、価格の安いところではきちんとシミ抜きが行われているとは思えません)

○私がシミ抜き料金を取っても、交代する別の店員が取らないときがある。みんなバラバラなので、客から怒られることがある。

(人によって料金を取ったり取らなかったりするので、料金がバラバラになり、苦情が出ることがあります。)

○毎月の会議で、シミ抜き料金をたくさん取った人は表彰されている。

(シミ抜き料金は売上が上がるので、店員に獲得率を競わせている会社もあります)

○忙しくて常に客の絶えない店ではシミ抜き料金など取っているヒマがない。売上が低くて余裕のある店ではたくさん取っている。

(最初からシミ抜き料金を取る行為は、売上の低い店舗での売上対策になっている場合があります。ヒマだから追加料金を取る、忙しいときは取らない、というのはおかしな行為です)

 実はこの行為は、店員も苦情が多く、困っているのです

 

 前金シミ抜きはなぜ広がったのか?

 最初からシミ抜き料金を取る行為は明らかにおかしな行為であり、法律にも抵触する可能性が高いです。それなのに日本中の多くのクリーニング業者が手を染めています。それはなぜでしょうか?

 ①単価アップの安直な手段

 クリーニング業界は50年近く価格競争が続き、各業者が値段を競い合っています。そういう業者は、定価を高くできないので、他の追加料金の手段があれば、すぐに飛びつきます。15年ほど前、どこかの業者が最初からシミ抜き料金を取ることを考えつき、安売り業者を中心にあっという間に広まった感があります。このように、この方法なら簡単に単価をアップできるので、誰もが飛びついたのです。 

②モラルのなさ

 2009年に発覚したクリーニング業界の建築基準法問題では、全体の半分以上の業者が違反であることが発覚しました。合法な業者よりも違法の方が多いのです。そういうモラルの低さが、こんなことを行う原因になっています。

③ノウハウ屋が全国に広げた

 クリーニング業界には、「こうすれば儲かる」、「これを取り入れれば成功する」といった安直なノウハウがあふれています。「最初からシミ抜き料金」も、こういったノウハウ屋がセミナーを開き、自分で学ぶことをしない業者達が安直に取り入れて広まっていきました。

④スーパーの介入

 クリーニング業者は、スーパーマーケットなど大型小売店にテナント入店している店舗が非常に多くいます。スーパーの中には、クリーニング店を客寄せの手段と考え、価格の安い店舗を選ぶ会社もあります。スーパーに値段を抑えられている業者は、他の手段で単価を上げざるを得ず、こんな手法に走るようになったのではないかと思われます。

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(厚生労働省が平成25年に作成した「クリーニングの実態と経営改善の方策」という書類より。複合施設、つまり、スーパーやショッピングセンターの中に入っているクリーニング店のみ、異常に価格が安くなっている。)

⑤接客でごまかす

 多くの大手クリーニング店は、印象のいい接客を店員に研修させ、接客技術を学びます。業界には多くの「接客の講師」がいます。接客がいいと、矛盾に満ちた行為をしていても、顧客はそれに気付きません。そこで、接客術を徹底的に勉強させ、実際はおかしな行為をしているのです。接客態度がいいからといって、やっていることがすべて正しいとは限りません。店員の笑顔にダマされてはいけません。

 

この問題への反論

 「最初からシミ抜き料金」問題に関しては、多くの業者が手を染めている行為ではありますが、一応わずかながらある反論を取りあげてみましょう。

 ①最新式のシミ抜き機を導入した。落ちるようになった。だから、料金はもらいたい。

当方からの意見

 技術が向上するのは良いことだが、それは店員が最初からシミ抜き料金を取ることと何の関連性もない。今まで無料で落としていたシミについても料金を取っている。どうしてもというなら後払いで取るべきである。

 

②最初からシミ抜き料金を取る行為は、多くの業者が行っている。これは業界の慣習である。

当方からの意見

 クリーニング業界の「多数意見」は全く参考にならない。2009年に起こった建築基準法問題でも、半分以上の業者が違反しており、現在も違法操業を続けている。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」の理屈で、消費者から不当な料金を取られてはかなわない。

 ③消費者契約法違反というが、裁判事例がなく、弁護士の話は単なる一つの意見である。

当方からの意見

 裁判事例がないのは、これまで消費者が気付かなかったことと、金額が少額で裁判までする人がいなかったからであり、裁判がないから合法だ、とはならない。バレるまでは悪いことを続けるという、クリーニング業者の悪しき慣例である。

 

反論はいつも零細業者

 クリーニング業界に問題を投げかけると、反論してくるのはいつも従業員のいない個人事業主ばかりです。零細業者は安売り大手業者のやり方を全く知らないと思いますが、自分達がけなされたと勘違いし、不満を述べるのです。

 お気持ちはわかりますが、ここは消費者の利益を優先し、広い気持ちで考えていただきたいものです。

 

零細業者がブラック企業をかばう業界

 日本のクリーニング業界は、生衛法などの影響により、零細業者が「業界の代表」となっています。安売り大手業者の所行を批判すると、個人事業主がそれに反発することが多くあります。いわば、ブラック企業は個人事業主を隠れ蓑にしているのです。これは、当NPOにとっても大変厄介な問題です。

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 個人事業主が、ブラック企業の盾になっている。

 

 「最初からシミ抜き料金」問題、解決の方法

 

最初からシミ抜き料金の撤廃を!

 これまで述べてきたように、クリーニング業界に蔓延する「最初からシミ抜き料金」は、業界の悪習であり、法律にも違反する行為です。この様な行為は、消費者の利益を棄損しています。ただちに止めるべきです。

 シミ抜き料金は後払いに!

 シミ抜きの講師も、シミ抜き料金を最初から取るのかおかしいといっているように、この問題は、シミ抜きについて知識のない店員が最初から料金を取ることに問題があります。

 この様なことから、シミ抜き料金を後払いにすれば、すべて解決します。クリーニング業者は、「料金がもらえない場合がある」として後払いを嫌いますが、「シミ抜きのため。通常料金以外の負担がかかった」として、後払いにすれば矛盾がなくなり、すべて解決します。

 

 消費者から希望があれば料金を返還する

 消費者契約法では、消費者の取消権を認めています。取消権とは、料金を返還すること。料金を取られ、シミが落ちていないような場合には、料金を返さなければなりません。

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 クリーニング店のレジには、顧客ごとに詳細なデータが保存されていて、どの客に関しても、どれだけシミ抜き料金を払ったかがすぐにわかるようになっています。

 顧客に返還の希望がある場合には、シミ抜き料金を全額返還することも考えられます。

 

業界体質を露呈した「最初からシミ抜き料金」

 「最初からシミ抜き料金」を取る行為は、日本のクリーニング業界の悪しき体質を露呈させた、恥ずべき行為であると考えられます。それについて説明します。

 動機が不純

 まず、クリーニング業界は価格競争が激しく、なかなか単価を上げることが出来ないと考える業者が多くいます。単価を上げるためにシミ抜き料金を取るようにしたというのが真相で、これは動機が不純であり。お客様のことを何も考えていない行為です。この方法は昔からいる低価格業者によって広まり、当業界に多いコンサルタントによって個人業者にまで広まっていきました。

 顧客に何一つ説明をしていない

 この方法は約15年くらい前に突然始まりました。それまでは、最初からシミ抜き料金を取る業者はほとんどいませんでした。

 シミ抜き料金が別になるというのなら、顧客に説明をする必要がありますが、その様な説明をした業者はどこにもいません。本来であれば、「これからはシミ抜き料金は別料金になります」と説明する必要があったのではないでしょうか?

 低価格で即日仕上げなら実現困難

 シミ抜き料金を取ること自体は悪いことではありません。現実には大変手間のかかるシミ、技術が必要なシミも存在します。

 しかしながら、低価格でたくさんの量を集め、なおかつ即日に仕上げるような仕事をしている業者が、手間のかかる難易度の高いシミ抜きを常時行っているとは思えません。苦情がその辺から発生するのも事実です。 

業界のモノマネ体質

 クリーニング業界では、何か新しいことが始まると、廻りが一斉にマネをする傾向が昔から続いています。優れたノウハウを取り入れて会社運営に役立てるというのならいいですが、不正、違法な方法まで平気でマネする業者が多くいます。2009年に起こった建築基準法問題がそれを端的に表しています。みんながやってるから、オレもやるというのはナンセンスです。

 誰からも反論がない

 この問題に関しては、シミが落ちるか落ちないか判断することができない店員が最初から料金を取る価値矛盾が最大の問題だと思いますが、誰からも反論がありません。強いていえば個人業者が反論しているだけです。自分で受付をして、自分で仕事をする零細業者なら確かに一部の利はありますが、市場の大半は大手業者が占めています。消費者への影響を第一に考えるべきではないでしょうか?また、個人業者の方々も、安売り大手業者を自分たちと同列には考えるべきではないと思います。

 

このように、クリーニング業界にはいろいろな問題や矛盾があり、それがこんな問題を引き起こすのではないかと思います。