様々な加工は本当なのか

クリーニング店は、衣料品に加工を行う

 クリーニング店を利用するとき、クリーニングの他に、「○○加工はいかがですか?」と加工製品を勧められることはないでしょうか?クリーニング店はお客様の品を洗って仕上げるだけでなく、いろいろな加工をしています。

加工製品には昔から撥水加工(水や汚れをはじく加工)、折り目加工などがあります。最近、他にもいろいろな加工が登場しています。衣料品には用途や必要に応じて、加工をするべきでしょう。

しかし、その加工に関しても、顧客の需要に応じて行われているとはいえない場合も多くなっています。

 2002年には、低価格でセンセーショナルを巻き起こした会社が、顧客にことごとく100円追加の加工を勧めていたことについて、実際には加工の効果はないと週刊誌が摘発し、大きな話題となりました。特に、低価格のクリーニング業者は、単価をアップするためにいろいろな加工を客に勧めることが多くなっています。

  クリーニングトラブル記事1   

クリーニングの加工料金を問題視する新聞記事

加工を勧める理由

 クリーニング店がお客様に加工を勧める理由はだいたい二つあります。

 一つは、衣料品に合った加工を施すことにより、より快適な生活を送ることができます。スキーウェアなどには撥水加工、ビジネスマンにはズボンの折り目加工など適切な加工をすることにより、洗うだけではない快適さを求めることができます。料金を伴わない加工には、他社との差別化という意味合いもあります。

 もう一つは、クリーニング店の単価アップのためです。加工をすることにより、単価を上げ、利益を得るということです。しかし、あまりに利益を追いかけすぎると、果たしてこの加工は意味があるのだろうか、というようなものも出てきます。

 近年はクリーニング業界の価格競争が激しく、価格が安いままではやっていけなくなり、安く見せて客を呼び寄せ、そこで追加料金を徴収するという方法が低価格業者の間で定番化しています。

 

いろいろな加工

 ここではクリーニング店が行ういろいろな加工を紹介しましょう。

 

撥水加工(防水加工)

 スキーウェアやレインコートに加工する加工として、昔から行われている加工です。以前は防水加工といいましたが、現在では技術が進歩し、通気性があっても水をはじく「撥水加工」になっています。これを拡大解釈して汚れも付きにくくなるとし、「防汚加工」として勧める業者もいます。確かに、水分をはじくわけですから、それは間違いではありません。ネクタイなど、汚れに弱いもの(絹製品でデリケートだから)に加工することもあります。

 この加工は、正確に行わないと効かない場合もあります。一般には撥水加工液をタンブラー乾燥機の中などで衣料品に噴霧し、そこに熱を加えて液を固定化させないと、あまり効果がありません。もしこの加工をしたなら、水を垂らしてみて、ほんとうにはじくか試してみるといいと思います。

 

折り目加工

 ズボンの折り目をずっと保つように加工するのが「折り目加工」です。ズボンだけでなく、学生スカートなどに加工する場合もあります。

 これには「リントラク加工」、「シロセット加工」という、国際羊毛事務局が認可する加工があります。日本折り目加工クリーナーズ協議会という団体がありますが、この団体は日本のクリーニング需要の半分以上のシェアがあります。この団体では定期的に加工が正確に行われているかどうか、検査しています。この様な組織があれば、加工は安心といえるでしょう。

 ただ、折り目加工の薬品は他にも販売している業者もいて、より低価格の加工も行われています。問題は、加工する業者のモラルといえるでしょう。

 

柔軟加工

 シャンプーをした後に、リンスをしますが、衣料品にも着心地を良くするため、柔軟剤を入れて加工する場合があります。これは一般に柔軟加工と呼ばれています。

 この様な加工については、ドライクリーニングの場合、溶剤に加工剤を添加することで加工し、水洗いでも洗いの後、すすぎのときに加工剤を入れています。この様な場合、すべての製品に加工されていることになり、当然、追加料金はもらいません。これはその業者の「特性」とか「方針」となります。こういった業者はたくさんいます。

 しかし、この様な製品も追加料金の対象とする業者もいます。単に柔軟加工をするばかりでなく、「キトサン配合」などと書かれた加工証を付けている業者もいます。キトサンは甲殻類アレルギーの人にはアレルギー源であり、深刻な問題ですが、もしアレルギーを発症した人がいたら、どうするのでしょうか?

 

防虫防菌加工

 衣料品は虫食いやカビによって損傷し、台無しになってしまうこともあります。それを防ぐため、防虫防菌加工があります。これをしているクリーニング業者は多くいます。

 これも柔軟加工と同様、ドライ液に添加するか、水洗いはすすぎのときに添加します。この方法だと全製品が加工されることになりますが、これを売り物にしている業者もいます。クリーニングした品が、虫食いやカビの被害を防げるのであれば、それは望ましいことです。

 この製品についても、後で加工して、追加料金としている業者がいます。この様な業者は、後から加工をするそうです。そういう業者の中には、以前は「アトピーにも効果がある」などとしているところもありましたが、当NPOの指摘により、その様な表記は削除されています。

 

花粉症対策加工

 春先には花粉症で悩む人が大勢います。秋にもアレルギーの人は困っているでしょう。そういう人は何かいい方法がないかと考えますが、クリーニング業者の中には、この花粉症に対応すると称する加工を追加料金でもらうところがあります。花粉症対策加工というわけですが、「花粉ガード加工」とか「花粉防止加工」などの名前で客に勧められています。

 当方がこの加工剤を販売する会社二社に確認したところ、片方は撥水加工とほぼ同じような薬剤で、衣料品に花粉を付きにくくする効果を持つ薬剤であり、もう片方は静電気の発生を防止する薬剤であるとのことでした。二社は全く違う方法で「花粉に対応」していることになります。要するに、この加工における方針は定まっていないということです。

 また、両者とも花粉症対策加工としてクリーニング業者に出荷していながら、実際に人がどれだけ花粉症を緩和できるかについては全く実験していないとのことでした。これでは、実際どの程度効果があるのかはわかりません。

 この様に、科学的根拠も曖昧で、充分な実験も行われていない加工であるだけに、最近ではこの加工を勧めるクリーニング業者も少なくなっています。

 以前は、「花粉症の方に効果があります」など、かなり怪しい宣伝を行っていた業者もいました。総合的に考えて、撥水加工に近いものや静電気防止剤を噴霧した程度で、花粉症にいい、と宣伝し、追加料金を取るのはどうかと思います。

 

デラックス加工

 クリーニング店が預かる品には、ブランド品、高級品、デリケートな品などもあります。そういう品には、「高級品には特別コースで」と、デラックス加工を勧められることがあります。デラックス加工は、通常料金の二倍にしているところが多くあります。どこでもたいてい、不織布と呼ばれる高級な包装材で包装されています。

 クリーニング店にとって、デリケートな品はなかなか厄介なもので、扱いに大変苦労します。特殊なボタンや飾りの付いた品、天然素材、染色の弱い品、素材の煩雑な生地、デザイン重視で洗うことをほとんど考えないで作られた品などは、気を遣って作業しなければなりません。そういう点で、デラックス加工が存在するのは当然でしょう。

 ただ、どこまでがレギュラーで、どこからがデラックスという明確な規定があるわけではありません。また、デラックス加工をどのように扱うかは各社でまちまちです。「特別丁寧にやっている」といわれても、どこをどう丁寧にやっているのかはハッキリしません。工場で働いている担当者が、「デラックス」というタグが付いていたので、ちょっと丁寧に仕上げました、などという程度で、料金が二倍になるというのはいかがでしょうか?

 かなり前の話ですが、デラックス加工を積極的に勧めていたクリーニング会社が、「当社のデラックスは包装を換えているだけ」と内部告発されたことがあります。

 もし店頭でデラックス加工を勧められたら、普通とどう違うのか、店員に確認してみるといいでしょう。

 

汗抜き加工

 現在、日本でもっとも多い加工製品が「汗抜き加工」です。2015年度に発表された日本政策金融公庫の「クリーニングに関する消費者意識と経営実態調査」では、撥水加工を僅差で抑え、汗抜き加工が第一位になっています。それだけ顧客に指示されている製品であるともいえます。

 汗抜き加工は、ドライクリーニングでは落としにくい汗の汚れを落とすやり方です。ドライクリーニングすべき衣料品を水に通す(あるいは水洗いする)か、石油系ドライクリーニングに水を含んだ専用の洗剤を入れて、水分を落とす方法があります。汗の成分は大半が水ですので、水を使用するのです。汗は水で落ちるので、水洗いする製品(ワイシャツなど)には加工しません。

 汗抜きクリーニングは、水洗いするのが一番よく落ちる方法ですが、水洗いすると縮む素材も多く、コストもかかるので、多くの業者は石油系ドライクリーニングに専用の洗剤を入れて「汗抜き加工」としています。この様な洗剤は石油系専用のものが数種類存在します。 

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汗抜き加工用の石油系ドライクリーニング洗剤

ソルカンドライで汗抜き?

 ところが、石油系ドライクリーニングでなく、ソルカンドライを使用している工場で汗抜きクリーニングを勧めている会社があります。洗剤会社に確認してみましたが、「ソルカンドライ専用の洗剤で、汗抜き用に作られたものはない」ということでした。「しかし、現実に汗抜きクリーニングを勧めている会社がある」というと、「洗剤の使用方法は各クリーニング会社の判断に任せている」と曖昧な答えが返ってきました。

 この様な会社は、建築基準法に違反し、引火性溶剤(石油系)を違法な地域で使用していて、行政から怒られてソルカンドライに変更したところが多いようです。ソルカンドライは非引火性なので変更すれば合法になるのです。しかし、専用洗剤が存在しないのにどうして「汗抜きクリーニング」になるのでしょうか?こういう業者は、顧客にドライ溶剤が変更になったことも知らせていません。

※クリーニングの建築基準法に関しては、このサイト

http://www.cercle.co.jp/blogs/?p=191

 

加工で注意すべきこと

 この様にたくさんの加工がありますが、クリーニング店を利用する上で、お客様は以下のようなクリーニング店には注意するといいでしょう。

 

○一年中加工を勧められる

 加工がいくつもあって、いつ行っても店員が次から次へと加工を勧めてくるようなところは、店員が加工の獲得数を競わされていることがあり、数ばかりこだわって肝心の加工がおろそかになっているかも知れません。たいていのお客様は、店員が加工を勧めると、それを承諾します。お金のかかることなので、それが適切な加工なのか、ここは慎重に考えましょう。

○一つの品にいくつも加工を勧める

 一つの衣料品に3つもの加工を同時に勧めるところもあるといいます。これは、やはり店員が加工の獲得数を競わされているからでしょう。果たして同時にいくつも加工をして効果があるのでしょうか?そんな実験をしたという話は聞いたことがありません。加工を単価アップの手段にしか考えていないのではないでしょうか?

○加工の名前がコロコロ変わる

 加工製品の名称をやたらと変えるクリーニング店があります。この理由は、当NPOの様な組織に指摘され、名称を変更している可能性があります。「花粉防止加工」と名乗っていた会社がいつの間にか「花粉付着防止加工」と変更したこともありました。名前がやたら変わるのでは、本当に効果があるのかわかりません。

○最初から店員が加工証を付ける

 一般にクリーニング店で何らかの加工をする場合、店舗で加工を依頼するタグを付け、工場で加工終了後、作業員が加工証を付けるのが一般的です。ところが、店員が最初から加工証を付けてしまう方針のクリーニング会社もあります。この様な会社は、どのようにして加工をしていることを証明するのでしょうか?

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後付けの加工証。加工には通常この様な加工証を加工終了後に取り付ける。

○ワイシャツに汗抜き加工を付ける

 文中にあるように、ワイシャツは水洗いするので汗抜き加工で取るのはおかしな行為です。不慣れな店員が間違えて勧めてしまうことが多いようですが、意味のない加工はすべきではありません。

 追加料金ポスター

 クリーニング業界では、「安い価格で客を集め、後で追加料金を取る」という方法をしているところを多く見かけます。これは、シミ抜き追加料金も同じです。しかし、効果の怪しい加工で追加料金を取られたり、洗って簡単に落ちるシミに追加料金を取られたりしていては困ります。加工を勧められたら、よく考えて承諾するようにしましょう。

※シミ抜きの追加料金問題に関するサイトはこちら

http://npo.cercle.co.jp/?p=104