後進国になった日本 クリーニングは安いニッポンの典型

 経済が停滞し、デフレが何十年も続く日本。日本はもはや後進国になったという意見もある。日本の停滞は、クリーニング業界の状況を見ればその構造が理解できる。なぜ日本の安さは続くのか、それを解明していきたい。

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 日本の現状をシビアに分析する書籍が増えている。

後進国日本

 新型コロナウイルスは世界中に広まり、感染被害ばかりか経済に大きなダメージを残している。当初日本は対策に成功していたが、第二波、第三波、第四波、そして第五波が続き、次第に政治不信が強まっている。

 実際、政府の対策はおかしなことばかり。突然配られたアベノマスク、感染を広めたGO TOトラベル、ほとんど効力のない緊急事態宣言や蔓延防止対策措置、いつまでも来ないワクチンなど、政治主導で対策が進まず、国民の我慢や個別の対策で必死に持ちこたえている。

 こういった政治、行政のダメさについて、日本はもはや先進国ではなく「後進国」の仲間入りをしたとする書籍が多く出版されている。確かに現在の日本を見れば、「経済大国」という時代があったのかと疑わしくなるくらいだ。

 失敗はコロナ対策ばかりでない。かつて「ものづくり大国」と呼ばれた日本はITで後れを取り、世界の技術開発競争から取り残されている現状は、コロナワクチンを独自に開発できないことからも推し量れる。また教育も、日本は世界で著しく英語が話せない国民となった。「世界の共通語」と呼ばれる英語ができないと、情報量に圧倒的な差が生まれてしまい、これは致命的だ。

 なぜ日本はこうなったのか。それは、政治を中心とした日本の体質にあるのではないか?諸外国の人々は合理性、論理性を重視する。こうすればこうなるという当たり前の考え方が正論となる。ところが日本では物事を始めるのに合理性よりも利権、根回し、前例、そして票が重視される。あのGO TOトラベルも観光利権が動かしたといわれる。日本を良くしようという大前提より、政治家個人の利益が優先されているのだ。アベノマスクも何らかの利権が働いているとしか思えない。管首相は印鑑の廃止を宣言したが、印鑑業界団体の反発によりあまり進んでいない。

 安倍前政権も管政権も当初は岩盤規制など改革を掲げたが、既存組織などに反発され結局進まない。そうこうしていると、モリカケだの桜を見る会だの、長男の官僚接待だの権力を背景とした不祥事が連発される。これは政治腐敗だが、それが当たり前なのが日本だ。

 

安いニッポン

 そして、日本衰退を一番顕在化させているのが日本の「安さ」である。コロナ前までは海外からの観光客が爆発的に増え、観光業界は潤ったが、このインバウンド需要は日本の物価の安さに起因している。安くて便利な国、日本は海外の人から好かれたのである。

 現在、海外でレストランに入ると、日本よりも高い料金を取られる。マクドナルドもダイソーも日本が一番安い国になった。安いのは結構だが、それは海外と比較して貨幣価値が下落した証拠でもある。現在日本は食品を始め多くの物資を輸入に頼っているが、円の価値が下がれば海外製品は高くなり、日本に入らなくなる。アベノミクスは結局「円」の価値を下げただけ、と近年の書籍は指摘する。

 そして、日本の安さを支えるのが労働者への安い賃金である。日本では大卒初任給が40年間ほとんど上がっていない。海外では有能な人材は初任給40~50万など当たり前だそうだ。また、現代人は以前よりはるかに緻密で密度の濃い仕事を要求される。それでいて低賃金では若い人たちがあまりにも気の毒だ。これは日本の経済政策が無策に等しいことの証左ではないか。いくら働いても楽にならないなら、人間が希望を持てるわけはない。外国人技能実習生も、日本の賃金があまりに安ければ、いずれは日本を選ばず他の国に稼ぎに行くだろう。最近、時給を1500円に引き上げようという話をあちこちで聞くが、それは労働者の待遇を改善するだけでなく、安くなるだけの日本経済を改善する目的もあるようだ。

 日本は国内どこでもコンビニがたくさんあって、便利な国といわれる。しかし、このコンビニこそ実は現在の日本を下落させた張本人である。コンビニオーナー達は猛烈に長い労働時間を課せられ、わずかな賃金しかもらえず、多くの自殺者が出ている。その上どんどん便利になり、取扱商品やサービスがやたら増える一方(クリーニングも扱っている店がある)なのに、それが全く報われない。こんな厳しい職場もないから、学生も現在ではアルバイト先に選ばないそうだ。

それでもコンビニは変わらない。これはなぜか。高い収益性で得た利益が政治献金を生み、政治を動かしているからだろう。コロナ禍では巣ごもり需要でコンビニや大型小売店は利益を出しているが、そうなるとますます献金は増えるのではないか。金でどうにでもなるのなら、もはや民主主義とはいえない。

 

クリーニングはダメ日本の典型

 そして、「安い日本」の典型なのが我がクリーニング業界である。

 ワイシャツ料金は70年代頃からずっと100円前後の業者がいる。典型的なデフレ業種である。安い価格で維持できるわけはないが、クリーニング業界は80年代までは利益性の高い業種だったこともあり、綿密な経理で計画的な経営をする戦略経営が定着しない。これでは労働環境が良くなるわけがない。価格への転嫁が最良の改善策だが、多くの業者がそれをしない。

 日本のサービス業は生産性が低いといわれる。一年中セールをやって安い価格で品を集め、工場は夜中まで残業では、生産性は低くなって当然だ。人時生産率(クリーニング業界の指標)がいくら良くても単価が低いのでは労働生産性は上がらない。

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一年中半額で預かる業者がいる。多くのクリーニング店が店頭に「半額」とお札のように張り出し、実際半額で受け付けている(この写真は単なるイメージで、特定の業者を指すものではありません)。

 

 もともとクリーニングなどの生衛関連サービス業は、価格競争に陥りやすい業種として、昭和32年には過度な価格競争が起こらないよう、生衛法が施行された。これ自体は理に叶っているが、市場を大部分を占める大手業者の大半が生活衛生同業組合に未加入では、法律はまるで機能しない。現在、どこの保健所にも「生同組合に入りませんか」と組合加盟を勧誘する冊子が置かれ、表面的には組合入りを勧めているが、たいていは希望しても入れない。こんなことが、「後進国」の日本ではまかり通る。せっかく生衛法を施行しても、市場の大部分の業者がノーマークとなり全く自由な競争が行われ、その結果、安売り競争が半世紀以上も続いている。生衛サービス業の過度な競争を防止する目的で施行された生衛法が、かえって過度な競争を加速させる元凶になっているのだ。これは政治、行政の機能不全であり、他のサービス業も同様である。

 生活衛生同業組合加入のすすめ

 行政は生衛組合への加入を勧めるパンフレットを配り組み合い入りを促すが、肝心の生衛組合が利権を手放そうとせず、入りたくても入れない。特典がたくさんあるのに、これはあまりに不条理である。

せめてできることを

 「YOUは何しにニッポンへ?」、「知られざるガリバー」、「世界が驚いたニッポン!」と「所さんのニッポンの出番」といった日本を礼賛する番組が放送されていた。あれらは何だったのか?ダメになっていく日本を隠すための隠蔽工作だったのか?

 日本のクリーニング業界は高度成長期に大きく発展し、世界一の需要を持つに至った。いわば日本発展の象徴のようだった。この背景には、高度成長期には現在よりも賃金が比較的適切に払われ、貧富の差があまりなかったことも大きい。海外では日本人のようにクリーニングは利用されていない。必要とされたのは、それなりの理由があるはずだ。それをきちんと維持したい。

 いつでも半額セールばかり続け、延々と安売りして工場は夜中までの残業になっているようなクリーニング会社は従業員を消耗品だと思って使い捨てているのだろう。価格を安くするのは、会社の売上を維持するための方法でもあるが、安くなければ集まらないのなら、サービスに魅力がなく、そもそも存在しなくてもいいのではないか。やたら安くする業者は、クリーニング業の尊厳をも否定している。

 多くの人に利用され、災害時には社会のインフラとして機能してこそクリーニングの存在意義がある。今、せめてできることを行い、日本が後進国にならないよう、必死の努力を試みたい。後に続く人々が、日本に生まれたことを後悔するようでは困る。正論を貫けば先進国に戻れる。どうやってそれをやるか。まずは利権にこだわる生活衛生同業組合を改革しなければならない。

クリーニングジジイ

市場の大変を占める大手業者は生衛組合に入れず、零細業者が業界の代表になっている。市場のほんの数パーセントに過ぎない零細業者が業界代表だと、大手業者は全く放置され、50年以上にわたって価格競争が続き、デフレが止まらない。これは業者だけでなく、票をアテにする政治、天下り先を作る行政にも大きな責任がある。