毛利セミナーで講演しました

毛利セミナーで講演しました

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 クリーニング業界で初の労働について語るセミナー

 2018年10月2日、クリーニング業界では最も良識派のコンサルタントであり、研究家の毛利春雄氏に招かれ、セミナーで講演しました。

 このセミナーは、外国人技能実習制度がクリーニングも三年受け入れ可能になるという最近の情勢を受け、その前にやることが・・・という趣旨で行われました。

 クリーニング業界で働く人は約40万人といわれますが、今まで一度も「労働」についての話が行われていませんでした。これは異常なことですが、当NPOに寄せられる相談の大半がクリーニング業界で働く人たちからのものであり、当業界は労働問題を多く抱えた業種であることは明らかです。その意味で、画期的なセミナーであると思います。

 このセミナーでは、まず主催者の毛利先生が、生産性を上げて効率の良い作業を行い、省力化を達成する方法を述べ、次に社会保険労務士の先生が労働法規について述べ、三番目に当方が、NPOに寄せられた労働相談の事例などを延べ、最後にウォッシュ&ホールド代表の方が若い働き手が多く集まる同社のあり方について講演されました。

 

 以下は当方の講演内容です。

  1,NPO法人クリーニング・カスタマーズサポートの成り立ち

○NPO法人設立のきっかけ

 小学館の雑誌に「洗っていないクリーニング業者がいる」という記事が出て業界が騒然となった。私は全協を通じて小学館に行ったが、「間違いなくこういう業者はいる」とのことだった。当業界にはいろいろ問題があることを知った。

 これにより、クリーニング業界には私たちの知らない、とんでもない業者がいることを知った。

                       

○2009年の建築基準法問題

 2009年に発生した建築基準法問題は、クリーニング業界の体質をさらけ出す結果となったが、これを機にマスコミとの接点が多くなり、新聞記者からNPO法人の結成を提案され、実際に立ち上げた。

〇クリーニング業界の労働環境

始まってみたら、クリーニング会社で働く人々の相談ばかりだった。

 クリーニング業界で働く人々は約40万人。これまで、何一つ話題になっていなかった。働く人々のケアはされているか、労働法は遵守されているか、今後は真剣に考えないとならない。 

2,当方に寄せられた事例

 

事例1

 元クリーニング店員から残業代返還の希望がある。

○営業時間=労働時間で、基本的に残業代が出ない。夜12時を過ぎても出ない。

○残業代は個別に請求するが、売上の低さを理由に出ない。

○完全ワンオペで、二人で働いている時間も一人分しか出ない。

○繁忙期だけ「ダブリ時間」という制度があり、二人分出すというが、時間当たり売上が低いと出ない。

○何年働いても昇給も賞与もない。

○給料から毎月無断で互助会費500円天引きされ、盛大な宴会の費用に使用される。

○紛失品は店員が賠償させられる。

○品質が悪く、客から苦情があると自腹で他の会社にシミ抜きを頼む。

※弁護士を通じて労働組合を紹介され、団体交渉を行ったが会社は未払い残業代の支払いを拒否、労働組合は会社の各店舗にアンケートを郵送、多くの店員が不満を書き連ねた返事を返し、会社は未払い残業代、互助会費二年分など約60万円を支払う。翌年、元同僚が三名が同様の請求を行う。

 

事例2

 クリーニング工場長から連絡あり。会社は低価格で有名なところ。部下達の待遇があまりに悪く、いくら会社に改善を要求しても直らない。ネットでNPOを見つけ、連絡した。

○社員はタイムレコーダーなし、出勤簿のみで、残業代を支払わない。

○繁忙期は残業が当たり前、閑散期でも土日は毎回残業になる。通常の日よりも4倍も品が集まる。

○繁忙期には、午前1時,2時までやった日もある。現在でも土曜日はそう。洗い時間の短縮など、手抜きが横行。

○ほとんどの店舗がオーナー制で、歩合で金銭が支給される。

※労働組合が結成され、活動中。

 

事例3

 クリーニング店員から電話があり、残業代の問題で悩む(従業員400名の大手)。

○店員をしているが、懐妊のため退社。残業代が支払われていないので、二年分を請求。

○会社は社会保険も雇用保険もない。

○経営陣は弁護士を連れてきて、「このことを他には言わないという誓約書に署名すれば、残業代を払う」という。会社に夫がまだいるため拒否。

※この人は組合に入り、会社と交渉。残業代が支払われる。会社は法令に従って該当従業員を社会保険に入れる。

 

事例4

 工場の作業員から連絡があり、残業がひどいという(残業代は払われている)年末、年始には12時を超えて仕事をした。繁忙期前に連絡があり、4月前に退社したい意向があったが、そのまま繁忙期を迎える。

○4,5月の残業がそれぞれ140時間、160時間になった。

○「12時お預かり、6時お渡し」のような時間サービスを実施しているので、帰れない。

○預かり量に対して、機械設備が少ない。ドライ機、水洗機がそれぞれ1台ずつで、一日3000点をさばく日がある。

○人時生産率は常時40を要求される。

○各工場で間に合わず、洗い時間を短くするようになる。

○新人が入ってきてもすぐ辞めるので慢性的な人手不足。

※過労死ラインを超え、命の危険があるので、退社を勧め、本人もそのようにした。現在は他のクリーニング会社に勤務。

 5

ひと月に休みが二日しかないクリーニング店員の出勤簿

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売上が一定以上でないと残業代は出さないという店内通知。このまま労働基準監督署に持って行かれたらどうするのか。こんな業者が、現場では「ワイシャツ90円」などとやっている。

タイムカード補修

タイムレコーダーの一部。朝6時に出社して、深夜2時まで働き、翌日5時に出社。これでは命が危ない。

こんな職場に外国人技能実習生を送り込んで大丈夫なはずはない。  

3,外国人技能実習生の問題

 現在、クリーニング業界では外国人技能実習生の滞在期間が三年に延長されると大きな話題になっている。今までは一年間だったが、今後は制度上の「技能実習2号ロ」がクリーニングでも実施され、三年になるという。

 当業界、最大の悩みは慢性的な人手不足。事業を拡張しようにも、マンパワーがなければできない。この点を解消できればクリーニング各社は安心して日々仕事に取り組めるだろう。三年になると、結果的に技能実習生の採用幅が大きく拡大し、多くの外国人が受け入れ可能になる。これを待望する業者も多い。

 今までも「外国人を三年に」の声は多かった。今回は役員が一新した全ク連から提案があり、業界の総意として外国人技能実習生を三年にしたい旨を管轄である厚生労働省に申し入れることになりそうだ。クリーニング業界も新しい時代を迎えることになる。

  しかしながら、この制度には以前より批判が多い。外国人技能実習制度とは、本来は日本の先進技術を開発途上国の人びとに伝授するボランティアという位置づけであり、行政もその様に対応している。ところが、実態はどの業種においても人手不足を補うための労働力でしかなく、職種を選べず退職もできない「人身売買的行為」、「現代の奴隷制度」など海外からも激しく批判され、大手新聞社もたびたびこの制度の問題点を指摘している。

 クリーニングは人手不足だ、だから外国人を三年に……という単純論法では済まされない問題である。

  また、クリーニング業界の労働環境にも多大な問題がある。当方は2014年にNPO法人クリーニング・カスタマーズサポートとして活動開始したが、寄せられる相談は、クリーニング会社に勤める従業員達の労働相談ばかり。当業界の労働環境は予想外に悪かった。

 他の業界では当たり前の昇給、賞与、有給が全くなく、社会保険どころか雇用保険もない業者もある。これでは、むしろ労働者が辞めずにいるのが不思議なくらいだ。

 当業界で働く労働者は技能実習生も含め、おおよそ40万人と推測される。これだけの人員を抱えながら、当業界では一度として労働問題を考える場を持たなかった。絶対に不可欠なことを欠いていたのでは、労働問題が起こるのは当然である。

 その様な中で、日本人が来ないから、外国人で……という安直な姿勢で受け入れることが、果たしてできるのだろうか?甚だ疑問である。

  とはいえ、このままではクリーニングに限らず、日本の労働力が不足、社会が機能しなくなるのは目に見えている。そうなると外国人技能実習生の拡充は総論では望ましい。

 この点をよく考慮し、クリーニング業界の人びとが労働者の環境や待遇などについて、いちど立ち止まり、きちんと考えるべき。労働法規も守らないなら誰も来なくなるだろうし、いずれトラブルが起こるのは必至。襟を正して考えなければならない。

 また、外国人が長くいて、人数も増えれば労働力不足が解消できると考えるのは早計である。人数が多くなり、長く滞在すれば彼らも権利を主張するようになるだろう。改めてその対応も協議すべきだろう。

 現在でも外国人技能実習生は各社の重要なパートナー。問題なく良好に受け入れなければならない。実習生にとって最良の環境を保てるよう、業界を挙げて努力すべきである。

 

4,労働組合の対処法

 

〇労働組合は避けられない

 日本には労働組合法があり、昭和20年代には労働組合の結成が奨励された。他の業種には当たり前のように存在し、一般に定着している。労働法が守られていないクリーニング業界は彼らにとっては「宝の山」であり、狙われやすい職種であり、今後の組合結成は避けられない。おそらく、外国人技能実習生が三年になるあたりが転機になるだろう。

〇そんなに悪いものではない

 クリーニング業界は労働組合について知識がなく、不安を感じる人も多い。しかし、組合は会社を潰すのが目的ではない。上手に付き合うことも大切である。

 組合は業界を浄化させるものになる。安直な安売り業者、法令を著しく遵守しない業者はターゲットになりやすい。そうなると、まじめに業務に取り組み業者には追い風になるだろう。

〇悪貨は良貨を駆逐する

 クリーニングの世界は他社のコピーが多い。誰かが何かをやってそこそこ成功すると、みんなそれをするようになる。しかし、不正なことまで手を出すのは非常に危険である。

 業界問題は、必ず悪い方からやってくる。正論を通すべきだろう。

〇対処法

 クリーニング業界はあまりにも労働法について無知すぎた。今後知識を豊富にして、怪しそうな行為、不正は避けるべき。従業員への通達文書は特に慎重に行うべきだろう。

 私たちが労働者を抱えて仕事をするのは当たり前なので、変に逃げるような行いをせず、正々堂々と向かい合えばいい。

 

当方の感想

○クリーニング業界で、労働問題について語られたことは一度もありません。「まずいことは、業界全体で隠す」という当業界の悪癖の中、あえてこの様なセミナーを行われた皆様のご尽力に感謝いたします。

○話の中で、クリーニング会社の待遇の悪さに触れ、「昇給も賞与も有給もない会社に人が来るわけがない」といいました。当たり前の話であり、笑いを取る場面だったと思いますが、なんと会場は「シーン」。ここにいる業者はクリーニング業界でも比較的良識派の方ばかりのはずですが、こんなジョークが通用しない業界なのだと思いました。

 NPOで相談を受けたとき、ほとんどの会社が本当に昇級も賞与も有給もありませんでした。経営者の無知もありましたが、経費節減のためいろいろ理由を付けて出さない悪質なものもありました。しかし、人手不足の中で、それで通用するはずはありません。そういう点から改善していかないと、どうにもなりません。

○全ク連やブラック企業の話になると、時折笑いもありましたが、とにかく労働の問題になると、全く静かでした。しかし当業界ではこれが初めてであり、大変貴重な一歩です。今後も労働問題については回数を増やし、真剣に論じるべきでしょう。

その他

○全ク連が行っている「引き取りに来ない品の問題」に関して、会場にいる方々に、「引き取りに来ない品が多く、困っている人はいませんか?」と質問すると、誰もそんな人はいませんでした。現在はどこの業者も大変優秀な受付レジを使用しており、入出荷管理がきちんと行われているので、そんな問題で困っている業者は、管理があまりにもずさんな不真面目な業者ということになります。業者がだらしないのに厚労省は補助金まで出しています。「現在のクリーニング業界は通信簿がオール1の劣等生を学級委員長にしているクラスのようなもの。こんな状態ではクリーニング業界の地位は上がらない」と全ク連の活動を批判しました。

○保管クリーニングの問題に触れ、多くの業者が保管クリーニングを行っているが、消費者には最初の数ヶ月、保管せずに放置されていることを伝えていない。作業の平準化にはいいかも知れないが、これは問題であると延べ、さらに、昨年11月に、半年間放置し、納品の直前に洗った業者の問題が新聞やテレビに取りあげられた問題を取りあげ、「怪しげなノウハウをみんながやっているからと追従すると、一番悪い奴は本当にとことんやるので最後のマスコミに取りあげられる。そして、みんなやっていると開き直る。安直な付和雷同は危険である」と述べました。