基準が曖昧な技能実習生制度
役人の胸先三寸で受け入れ枠が決まる?
省庁交渉
2016年11月21日、午前10時より参議院議員会館にて外国人技能実習生制度に関する省庁交渉が行われた。会合は事前に質問側が質問を行政側に送付し、質問にこの場で答える形式で行われた。
当方は、NPO法人外国人技能実習生権利ネットワーク定例会へ出席させていただいているが、クリーニング業界の外国人受け入れ枠に関して疑問があり、この場で解明すべく、出席させてもらった。
会場は70人程度のキャパだったが満員、外国人の姿も多く見受けられた。かなり多くの質問が寄せられ、それらについて法務省、厚生労働省、国土交通省らの担当者が答えていた。質問によっては、回答があまり的確でないらしく、質問者が声を荒げるような場面も何度かあった。
外国人に依存するクリーニング業界
クリーニング業界は、特に都会において、外国人技能実習生にかなり依存した業種であるといえる。
クリーニングはもともと職人色が強い業種であり、過去においても現在においても雇用体系が全く確立されていない。厚生労働省の認識ではクリーニングは「職人の丁稚によって成り立つ産業」であり、人を雇うなどということはない。これは、彼らの天下り先を維持するためにそういう位置づけにされている(厚生労働省認可の全ク連も、個人業者ばかりで各都道府県の理事長らも人を雇用していないのがほとんど)のだが、結果としてこの世界で雇用される従業員はほとんど保護されておらず、主として安売りクリーニング業者などではサービス残業など労働法違反やブラック企業的行為が日常茶飯事になっている。
こんな状況だから、人がなかなか集まらず、慢性的な人手不足となる。特に、安売り業者は通常の二倍もの量を預かったりするので、「やってられるか」と辞めていく人が多い。その代打となるのが、「途中で辞めることができない、逃げることができない」、外国人というわけだ。
しかし、外国人技能実習生制度は明らかに矛盾があるし(日本の先進国技術を開発途上国に教えるボランティアというタテマエだが、実際はまるっきり単純労働)、中には外国人をひどい扱いをする業者もいる。そういう中で、かわいそうな扱いをされている外国人もいる。当NPOで調査したときも、「上司からひどいことを言われた」、「ものを投げつけられた」、「工場の安全管理が悪く、やけどをした」、「夜中の3時まで働かされた」などという回答があった。また、会社によっては外国人研修生は徹底的に雑用をさせ、朝の掃除から終了時の清掃までさせている場合もあった。これは、外国人は日本人よりも時給が安いため、徹底して活用しているものと思われる。
これらの事実を調べた限り、外国人が正当に扱われているとは言いがたく、注意が必要であると思える。
当NPOに寄せられる相談の多くは、クリーニング会社に勤務する人々の労働相談である。当業界の労働環境が非常に芳しくない実態が理解できたが、こういう業者達が特に外国人技能実習生を受け入れていることもわかっている。日本人ですらまともに扱わない彼らが、外国人を正当に扱うとは思えないが、外国人は相談の窓口も限られており、余計に気の毒である。
「常勤職員」とは何か
この外国人だが、受け入れる会社の規模によって人数が決まる。常勤職員50人以下なら3人、100人以下なら6人と従業員の人数によって増えるが、300人以上なら常勤職員の20分の1(2016年12月現在)となっている。
この受け入れ人数を決める基準となる「常勤職員」なる言葉の定義についてJITCOや入国管理局に聞いてみたが、それによると、「週30時間以上勤務していて、社会保険に入っている人」が常勤職員であるという。この説明では、社会保険の加入人数で決まるものと考えられそうだ。
ところが、入国管理局では、会社の受入枠を決める際、各社の雇用保険の加入人数を確認するという。これによって受入枠を決めるというのだ。
これはおかしな話である。雇用保険はパートタイマーでも加入する。労働時間が週20時間のパートタイマーまで入った数値を示しても、彼らのいう「常勤職員」の数にはならないではないか?なぜこんなことになっているのだろうか?
クリーニング会社は、働いている人はほとんどがパートタイマーという会社がザラにある。そういう会社で、雇用保険の数を申告すれば、それなりの数の外国人を呼ぶことができる。それゆえ、外国人の数を水増ししているのではないかという「水増し疑惑」がいつもささやかれている。
こういった事情から、私はこの機会に、
○「常勤職員」とは、どのような人をさすのか定義を教えてもらいたい。
○なぜ、雇用保険の加入者数しか調べないのか教えてもらいたい。
ということを質問することにした。事前に外国人ネットワークの方にお願いし、それに対する答えをこの省庁交渉でもらうことになっていた。
曖昧な外国人受け入れ枠
午前10時、参議院議員会館の部屋に入ると、法務局の人物を真ん中に、国土交通省、厚生労働省などの役人が横並びになっていた。質問はかなり多く(30くらいはあったと思う)、役人達がそれを読み上げていった。質問が上がると、担当部署の人物がそれに答えていた。
私の質問に対しては、法務省が答え、
「雇用保険だけ見ているのではなく、他も見ている」とのことだった。
なんとも要領を得ない回答だったので、「では、何を見ているのか?」と聞いたら、
「ちゃんと見ている」
とだけ答え、どのように確認しているかについてはっきりと言わなかった。
私はさらに追求したかったが、他の質問がたくさんある上、交渉の時間が1時間半しかないため、これ以上話すことができなかった。
というわけで、全く話にならない役人の回答だった。
「ちゃんと見ている」で済むなら、説明なんて何もいらない。「わたし、ちゃんとやってますよ」ですべてが片付けられる。あまりに抽象的で不明瞭な回答だ。
結局、外国人技能実習生の受入枠に関しては、明確な基準を示すことはしない、というわけである。違ういい方をすれば、「受け入れ人数は、我々の胸先三寸で決まる」ということだ。
役人というものは、何か決めごとをするときに必ずこの様に基準をハッキリと決めず、自分たちの付けいる隙を作るようにも思える。きちんとルールを決め、フェアにやってもらいたいのだが、なぜだかこの様に肝心な部分を曖昧にする。まさか、と思うが、ここに賄賂でももらう手段を考えているのだろうか?
外国人技能実習生をより多く受け入れたい企業は、多くは仕事がきつすぎて日本人が思うように集まらず、外国人に頼らざるを得ないようなところである。このような会社は一人でも多くの外国人を受け入れたい希望がある。そういうところへ、こんなあやふやな基準を提示されれば、外国人を少しでも入れるため、「裏技」を考える業者だって出てくるだろう。役人のやり方は、そういう行為を誘発させたいみたいにも感じられる。
外国人技能実習生制度は、もともとは「日本の先進技術を開発途上国の人たちに教えるボランティア」という位置づけである。しかし、現実は賃金の低い国の人々を呼び、単純労働をさせる労働行為であることに間違いはない。役人達がそんなことを知らないわけはない。こういう矛盾した制度だから、困っている人たちも大勢いるし、海外からは「日本に今も残る人身売買制度」などと最大級の批判もされているのだ。
最初からゴマカシの制度なので、受け入れる人数もゴマカシでいい、というわけだろうか?インチキついでにこっちもインチキしようか、ということか?大変不愉快な気持ちで参議院議員会館を後にした。