急増する労働問題の問い合わせ
当NPO法人クリーニング・カスタマーズサポートは、クリーニング業界のさまざまな問題に対処するため、2014年に設立された組織ですが、当初は消費者問題が多くなると予想していたものの、実際にはクリーニングで働く人々からの問い合わせが多くなっています。これは、予想外のことでした。
特に、最近になって労働問題問い合わせが増えています。このクリーニング業界では、労働問題が深刻であることを改めて考えさせられます。
数多く出版されるブラック企業の関連本。ブラック企業問題は今や業種を越えた社会問題になっている。
同じような問い合わせが多い
こういった問い合わせに関しては、いろいろな会社の方々が連絡をしてくるのですが、不思議なことにほとんどが同じような内容です。「残業代がもらえない」、「マネージャーにパワハラを受けた」、「会社の経費を自分で払った」などです。ことに、「マネージャー」と呼ばれる上司とのトラブルと、実際の労働時間より長く働いているのに、賃金が払われていないという問い合わせが多いです。会社が違っても、みな同じことで困っているように感じられます。
「秘密会議」?
この理由は、日本のクリーニング業界では、参加者のメンバーも会議の内容も知らされない「秘密会議」が密かに行われ、表に出せないノウハウを共有しているのではないかと想像されます。真面目な業者がきちんと仕事をしている一方で、問題のある業者が共謀しているのかも知れません。
2009年に発生した、クリーニング業界の建築基準法違反問題では、大勢の業者がほぼ同じ手口で違反を隠していたことが発覚しています。この様に、法律に触れるような「裏ノウハウ」を、各社が密かに共有している可能性があります。多くの会社でほぼ同じことをしているという点で、どうもおかしいです。
消費者問題として、シミ抜きに追加料金を課す、白いワイシャツ以外は有料にする等といったことがあり、裏ノウハウのように業者に伝わったことがありましたが、これが人の雇用に関しても広がっているとしたら大問題です。
日本のクリーニング業界には毎月3度発行する業界紙が二紙ありますが、この二紙に、全く同じ広告記事が掲載されています。それは、参加者のメンバーも議題も書かれていない不思議な会議の告知です。この様なところでは、いったいどんなことが話されているのでしょうか?
http://www.cercle.co.jp/blogs/?p=191
(建築基準法問題のサイトはこちら)
各社に共通する事項
ここに、問い合わせがあった方々が共通して話していることを列記します。
工場単位で管理
クリーニング会社はある程度の規模以上だと、複数の工場を持つことが多い。それぞれの工場には10軒程度の店舗が付いており、工場単位にマネージャーと工場責任者がいて、それぞれ管理している。(これ自体は裏ノウハウとかではなく、たいていのクリーニング会社で共通している)
マネージャーの権限
マネージャーは店舗の店員配置、店員の人時などを担当する。マネージャーは工場単位の収益性、利益性も把握している。採算性が良くなると自分たちの成績も上がり、給与に影響する。そのためマネージャーは人件費を中心に、経費をできるだけ安くしようとする。マネージャーは店員から昇格した人が多く、法的知識が豊富というわけでもないため、いき過ぎた節約、経費節減などが頻繁に行われる。また、マネージャーにはいろいろな権限が与えられるため、低価格の業者などではパワハラなどが発生することがある。マネージャーはときに傲慢になることもあり、マネージャーの態度に不満を持つ人も多い。
残業禁止
店員に関して、基本的に一般パートは「残業禁止」とし、それでいて通常の二倍くらいの仕事量を強引に押しつける。到底できないので残業になるが、「このくらいの量は普通の人ならできる」と、従業員の努力不足だとする。店舗はたいてい前半、後半の交代制で、「仕事が残った場合は次の人に任せなさい」となっているが、引き継ぐ人に悪いので、ほとんどが残業をして仕事を残さないようになる。店員の情け心をサービス残業に転嫁させる。
残業申告制
タイムレコーダー(受付レジにその機能を持たせているものもある)はあるが、会社で打刻する時間を指定する。タイムレコーダーを単なる「出勤簿」として使用し、給与は営業時間と時給をかけた数値で、ほぼ定額。「残業をする場合は申告して下さい」というが、申告しても「そのくらいの量は時間内でやって」と拒否される。打刻の証拠がないので、残業時間を証明できない。巧妙にサービス残業を誘発する。
残業をしたと申告しても、「それはあなたが不真面目だから」、「あなたの仕事が遅いから」などと反論される。
うやむやな残業時間
契約社員など、ある程度長く働く従業員に関しては、雇用契約書の給与欄に(残業代20時間含む)などという注釈を付け、正確な残業代が把握できないようにする。「残業代含む」という表記は普通は給与の高い特殊な仕事によく使われるが、クリーニングではごく安い給与でもこのようなことをする。
完全ワンオペ
交代制の職場で、仕事は一部を除いて必ず一人でやること(ワンオペ)とし、前半の人が仕事が終わらず残って残業しても、時給にしない。二人で仕事をしても片方の時給しか出さない。「時間当たり売上5000円以上なら残業代を付ける」など、猛烈に仕事が多かった場合のみ「ダブリ時間」として、二人目の人に残業代を付ける。しかし、残業代は「今月は20時間のみ」など制限付き。
報奨金
ボーナスなどを一切出さず、目標を達成したときに報奨金を出す(しかし、その金額はごくわずかなもの)。店員は売上、加工獲得率などを競わされ、工場作業員は生産性を競わされる。成績を上げようとする従業員により、サービス残業が誘発される。また、成績が悪いと怒られるので、必然的にサービス残業せざるを得なくなる。
店員に責任押しつけ
一般には工場でやるような検品や仕分けも店員の仕事とし、店員の負担を増やす。これによって工場の経費を軽減している。工場では検品も行わず、店舗から来た品をいきなり洗う。これにより苦情は多発するが、問題があれば店員の責任とし、店員に弁償させることもある。
問題の解決策
当NPOは昨年より労働問題に関わりましたが、そう簡単に解決できることではないことがわかりました。しかし、あからさまな違反を放置しておくわけにはいきません。
本来時給とは労働時間に対して支払われるものであり、仕事の達成度で決まることはありません。パートタイマーであればなおさらです。しかし、クリーニング業界は依然として価格競争が続いており、残業代を払わないような違法な裏技を思いつき、広まっていった可能性もあります。
昨年は、元クリーニング店員の方が退社した業者に対して未払い残業代の支払いを求め、約60万円の支払いに成功しました。労働評議会の方々に大変お世話になりましたが、交渉の中で、クリーニング会社が専門用語を使ってきても、こちらもクリーニングには詳しいので何を言われても回答できる、ということが大きかったと思います。
たとえば、団体交渉で会社側が「店員が客から品を預かる際、1時間に46点くらいの点数なら簡単にできる」と言ってきましたが、私たちは、「一般的に一人が1時間に預かれる量は20~25点くらいで、46点などとてもムリ」と反論をアドバイスしています。
また、このときは未払い残業代の他、勝手に天引きされていた互助会費、ディスプレイ費用の自己負担、弁償させられた紛失品などの金額も戻っています。正直、極端な従業員への締め付けには閉口しました。
未払い残業代は時効が2年で、2年さかのぼって計算されます(退社してからでも請求は可能です)。現在も立ち上がった人々によって交渉が行われており、今後、この動きは大きくなっていくと思われます。
クリーニング業界で働く方で、もし賃金に納得がいかなかったり、困っていることがあれば、当NPOのフォームより御相談下さい。
こんな方はぜひご連絡を
○残業しているのに、残業代が出ない。
○タイムレコーダーを打刻後に働かされている。
○タイムレコーダーの打刻をまだ働いているのに強要される。
○配送の都合で早く出勤しろなどといわれる(そのぶんの時給が出ない)。
○マネージャーや工場責任者のパワハラがひどい。
○時間を拘束されているのに、マネージャーからでもヒマなときはあるでしょなどと言われ、時給になっていない。
○会社の都合で一日に2つの店を掛け持ちで担当するときがあるが、移動している時間を「休み時間」などといわれ、時給が発生しない。
○毎月の給料から事前の説明なく「互助会費」などの名目で天引きがある。
○完全ワンオペで、二人で働いているときに、一人分の給与しか出ない。
○「1時間当たり5000円以上の売上がないと残業代は出さない」、「1時間に25点以上預からないと時給にしない」など、違法な制限がある。
○「当社は残業禁止」などとして申告しないと残業代を出さない。
○一年中セールを行い、「半額の日」などは必ず残業になるのに、残業代が出ない。
○給与明細が理解できない。
○自分の責任でないのに、弁償させられたことがある。
○他の人が勝手にタイムレコーダーを打刻する。
○配送員は、スピード違反をしないと配送が間に合わない。
困っていることがあれば、当NPOのフォームより御相談下さい。