現在、クリーニング業界では大勢の人たちが働いています。しかし、クリーニング業界では現在まで業界の労働問題がきちんと話し合われたことがありません。もともと職人の仕事だったため、現在でも行政の側に大勢が働く職場という意識がないことが原因です。現実には何百、あるいは千人を超えるような従業員が働いている企業があるのに、業界全体にそのような認識が乏しいのです。
クリーニング業界では価格競争が激しく、安売り競争が何十年も続いています。資材や燃料が何倍にもなっているのに、クリーニング料金だけが変わらないのです。しかし、その矛盾がクリーニングの品質や、働いている人たちに影響を及ぼしていることは充分に考えられます。
従業員にとって、働いた分の給料がもらえなかったら大変です。ここでは現実に起こった問題を取りあげますので、自分の待遇には該当しないか、よく調べてみましょう。
遂に発覚したクリーニングの労働問題
2015年2月、ある月刊誌が「パートに残業強いる極悪ブラック企業」としてクリーニング業者から元パート従業員が約60万円の残業代未払い分などを払い戻しさせたことを報じました。強烈なタイトルですが、現実に行われていた労働者への扱いは、このタイトルでも何らおかしくはないものでした。(このニュースは、ヤフーニュースでも読むことができます)
「ブラック企業」とマスコミから呼ばれる業者がクリーニング業界でも登場、発覚したことは、全く憂慮すべき出来事ですが、どのようなことが問題だったのでしょうか?
低価格店は仕事が多い
価格を安くしているクリーニング店は、利益を出すためには、安い分だけたくさん品を集めなければなりません。例えば、売上が月間150万円の店では、一点当たり単価が380円の店なら、一日平均130点の品が集まりますが、これが単価250円だと200点集めなければなりません。仕事は1.5倍以上になります。この様に低価格店は預かり量だけでも仕事量が多くなります。
(クリーニング店のチラシ。どこも低価格で宣伝しますが、そのしわ寄せは、従業員の待遇にも影響を与えています)
クリーニングのサービス残業
クリーニング業界の労働問題を語る上で、現在、最も大きな問題はサービス残業です。先の団体交渉でもこのことが一番のポイントとなりました。これに関しては、下記のサイトで詳しく述べます。
http://npo.cercle.co.jp/?p=230
一年中サービス価格
(クリーニング店店頭で多く見かける半額の表示。特定の業者を指しているのではありません)
最近、安売り店の中に、「年中半額」として、ほとんどの品を定価の半額で受けているところがあります。これ自体、景品表示法の二重価格に抵触する行為ですが、多くの品を半額で受け付ければ、それだけ預かり量が増え、店員への負担も増えます。また、半額セールの種類もたくさんあると、それだけ煩雑になり、従業員の手間も増えます。
10種類以上の加工製品
低価格のクリーニング業者は、安い価格を補うために、やたらと追加料金を客から取る傾向があります。「安い価格で客を引き寄せ、後から次々と追加料金を取って帳尻を合わせる」というわけですが、シミ抜きはいちいち追加料金、付属品は外れないものも追加料金、そして、加工製品が10種類以上もあり、加工製品の獲得率を毎月競わされているのでは、仕事は増えるばかりです。
互助会費
先の団体交渉では、毎月500円ずつ給与から天引きされていた互助会費も払い戻しの対象となり、二年分、計12000円が払い戻されました。何の連絡もなく、給与から互助会費を天引きし、会社行事に充てるような行為は許されません。団体交渉した人だけ払い戻されましたが、本来であれば従業員全員に戻されるべきではないでしょうか?
休み時間が休めない
現行の労働法では、6時間を超えて勤務する場合、間に45分以上の休み時間を入れることになっています。ところが、そういう時間が設定されていても、仕事の量が多すぎて全く休めないという場合があります。先の団体交渉では労働組合がアンケートを採りましたが、50名以上の人から回答があり、その中のかなりの人が「休み時間に休んでいない」と書いていました。
時間当たり売上
ファストフード店などでは、「時間当たり売上」という数値を算出します。1時間にどれだけ売上があったかを示すものですが、こういう数値を競わせているクリーニング業者もごく少数ですがいます。
しかし、「時間当たり売上」をクリーニングで計算するのはどうかと思います。クリーニングでは、お預かりのときには売上が発生しますが、引き取りのときには売上がないからです。たとえば、2014年3月末は消費税引き上げ前の駆け込み需要があり、売上がかなり上がりましたが、4月2,3日頃は残業しているのにさっぱり売上が上がりませんでした。理由は3月末に預けた人たちが引き取りに来たからです。
先の団体交渉でも、「売上5000円以上でないと時給は出さない」などという業務連絡が問題視されましたが、時間当たり売上と時給に何の関連性もなく、売上がないと時給は出さないなどというのは明らかな違法です。
店舗ディスプレイ
クリーニング店は店舗に季節のディスプレイをする店が多いのですが、ろくな費用も与えず、上司がディスプレイを強要するのは問題です。今回の問題に関しても、年間に1000円を二回払っただけで、一年中ディスプレイをさせていたことにより、訴えた人に費用が返還されました。
弁償も自分で
先の団体交渉では、紛失したワイシャツを、店員が自ら賠償させられたということが話題になりました。
これは、一般のクリーニング会社ではおおよそ考えられないことです。預かった製品のトラブルを従業員が自ら賠償させられたのではたまりません。団交では勿論、弁償した13000円は返還されました。
プレゼント品の棚卸し
クリーニング店によっては、お客様にいつもいろいろな品をプレゼントするところがあります。これはこれでいいのですが、プレゼントの棚卸しまでさせている会社があります。数多いプレゼント品の棚卸しはそれだけで時間を要し、作業員の負担はより大きくなります。
棚卸しは極端な例ですが、店員にやたらと業務報告書を書かせる会社があります。報告書を書くのも仕事のうちですが、それは当然業務時間の範疇であり、あまり過度な業務連絡はどうかと思います。
クレームの多さ
一般に低価格店ほど顧客の苦情が多くなるといわれています。短時間で多くの仕事をさせられる職場では、仕事が粗くなり、ミスを併発し、苦情が多くなるのは当然です。顧客のクレームばかり受けていたのでは、精神的に大変つらくなるでしょう。
こういった苦情は上司が担当するのが普通ですが、現場任せにするような会社もあると聞いています。
以上、上記のようなことに該当し、悩んでいる方がいれば、当NPO法人クリーニング・カスタマーズサポートにご連絡下さい。
クリーニング業界では、過去に建築基準法問題などが起こったことがあります。法律に違反して、違法な工場を次々と建て、各地に進出していたクリーニング会社が朝日新聞によって摘発されたのです。このように、クリーニング業界にはモラルに欠けた、不心得な業者もいます。多くの方々が安心して仕事ができるよう、当NPO法人クリーニング・カスタマーズサポートは願っています。
(2009年7月に摘発されたクリーニング業者の建築基準法違反。23カ所もの工場が違反していた)