NPO設立10周年
NPO法人クリーニング・カスタマーズサポートは2024年で設立10周年を迎えました。現在までの歩みや実績、また最近の傾向などを振り返ってみましょう。
設立の動機は建築基準法違反
2009年、クリーニング業界では建築基準法問題が起こりました。それまで破竹の勢いで発展していた売上業界第二位、第三位の会社が相次いで建築基準法違反で朝日新聞により摘発されました。ところが、建築基準法違反はクリーニング業界の「常識」だったのです。これには呆れました。単純にいえば、この業界には違反している業者の方が多いということです。こんな業界でどうやっていくかと思っていたところ、知り合いからNPOの設立を勧められ、有志を募って始めようと思ったら協力者が次々と現れてとんとん拍子で設立にこぎ着けたのでした。NPO法人は、設立は大変ではないかと思いましたが、話がすいすいと進みました。
こういった問題がNPO設立のきっかけとなった。建築基準法違反は報道された業者だけでなく、違法操業の工場の方が適法より多いというクリーニング業界の闇が始めて明らかになった。この問題は現在も解決しておらず、のうのうと違法操業している業者が1万軒以上もある。
クリーニング業界からは歓迎されないNPO
NPOは設立した年の2014年8月に読売新聞2面の「顔」で紹介してもらいました。ところが、それに出ると歓迎どころか不満をいう業者が出てきました。紹介された記事には、「洗っていないクリーニング」のことが書かれており、これを事実でないと反論(ただし、自分のブログだけ)、彼らは「自分たちがバカにされた」と思ったようです。
「洗っていないクリーニング」については、当NPOのサイトを見ていただければわかるとおり、現実に存在した(あるいは、する)問題です。不満をいう人たちは市場の大半を占める大手業者のことを知らない個人業者が大半です。クリーニング業界のオピニオンリーダーはなぜか小規模の業者が多く、彼らは大手業者の実態も全く知りません。以前からの問題ですが、こういったたいした知識もない業者に文句を付けられてはたまりません。
しかも、彼らは直接こちらになにか言ってくるのであれば話はわかるのですが、ネットで文句を書いているだけです。直接話をする勇気もないのでしょう。案外こういう人たちの方が、大きなブラック企業よりも面倒な相手です。
この後も2017年には「ビートたけしのTVタックル」に出演し、東国原さんから「しみ抜き有料」のおかしさを説明しましたが、これについてもいろいろ文句をいう人がいました。
クリーニング業界にはあまりにも秘密が多く、まるで昭和のプロレス界のように一般社会から隔絶して秘密を守っている感があります。そうなると、クリーニング業界の秘密を暴く当団体は、いろいろ秘密が多いクリーニング業界からは歓迎されない存在になっているようです。
こういった記事を歓迎しないクリーニング業者が多い
圧倒的に多い労働相談
当NPOはネットなどで相談が寄せられ、それに対応することが多いですが、当初は消費者からの相談が多いものと思っていましたが、始めてみればクリーニング会社に勤務している方々からの労働相談が全体の8割以上になっています。残業代が出ないが非常に多く、保険に入れてくれない、夜中まで仕事が続く、マネージャーが賃金を安く抑えようとするなど、そもそも労働基準法をまるっきり無視しているようなものばかりであきれました。そういうことから労働組合や労働関連の問題に詳しい弁護士などと連携して物事を進めるようになりました。当業界の労働環境が非常に悪く、特に低価格な業者は劣悪であることがわかりました。
こういった問題は何より会社経営者の姿勢やモラルの問題ですが、他にも大きな要因があります。昭和32年施行の生衛法は、クリーニングや理美容業、いろいろな飲食業などを零細業者の集団と決めつけ(当時はそうだったから)、各業界を管理する法律ですが、これが現実には何百人も従業員を雇う会社のある業界と全く合わなくなっているのです。ところが政治も行政もこの法律に沿って動いているので、労働問題が置き去りになるのです。政治家は票田である零細業者の話しか聞かず、行政も天下り先を維持するため「現状維持の微調整」を繰り返す・・・現代社会のひずみが、そのままクリーニング業界にもふりかかっています。
低価格なクリーニング業者の労働環境は劣悪
業界全体での隠蔽
最近の傾向として、クリーニング業界は業界全体で問題を隠蔽する傾向が出てきたようにも思えます。
もともとは2009年に発生した(というかバレた)業界を挙げての建築基準法違反問題に対応するために立ち上げられた団体ですので、業界の事実を世間に公表されるのには抵抗があるのでしょうが、それにしても業界全体での隠蔽には呆れるようなものもあります。
建築基準法違反は特に全ク連の業者に違法操業が多い傾向があります。14年間も違法操業を続けるのは腹立たしいですが、違反者が多すぎるのでかえって話題にならないのです。
店員が最初からシミ抜き料金をとるような行為も消費者契約法違反が疑われますが、多くの業者が手を染めているため、今や「業界標準」となってしまい、違法だと主張するのが難しくなっています。
実態は「放置クリーニング」である「保管クリーニング」も、ヤフーで「保管クリーニング」と検索すると最初の20ページくらいまでどこまでもスポンサーサイトしか出てきません。誰も声を上げないし、おかしいと思っていても業者がみんな手を出すのでどうしようもないのです。
このように、業界全体で不正を隠蔽するので、なかなか困難な闘いを強いられています。当NPOができたことで、クリーニング業界の隠蔽が進んだように思えます。本来は違法だったり悪いことなのに、組織全体で隠す「裏ノウハウ」が、当業界では広がっています。
業界の極端な隠蔽体質に対抗するには、そういった事実を白日の下にさらすことが必要となります。そういったことから、多くの人の目にとまるマスコミの方々の協力は大変ありがたいものとなっています。
保管クリーニングの実態(すぐに洗わず、半年近く放置する)を暴いた朝日新聞記事。ここでは一業者の問題のように書かれているが、実際にはこの事業を行う業者のほとんどが同様の行為に現在も手を染めている。朝日新聞夕刊の一面トップという大々的な扱いなのに、クリーニング業界では全く話題にならなかった。自分たちに不利なことには全く触れない業界の隠蔽体質が明らかになった事件。
孤独な戦い
世の中には国民生活センターとか消費生活センターなどもありますが、クリーニングに特化した団体は他にありません。各機関は専門家ではないので、クリーニングの加工だの追加料金だの細かいことに関して知識があるわけではありません。また労働問題に関しては、労働基準監督署がありますが、ワンオペだのダブリ時間だの、ブラック企業が繰り出す様々なごまかしに対応できるわけではありません。
そうなると、こちらが頑張るしかありません。「クリーニング業界の諸問題を解決したいが、どうしたらいいか」とAIに聞いてみましたが、「NPO法人クリーニング・カスタマーズサポートの鈴木さんに相談してみてください」と回答が来ました。AIに認知されているとは光栄ですが、それだけこのような組織は他にはないということを認識させられました。
クリーニング業界の現状は、バブル崩壊以降、日本が衰退してきた原因の正体を象徴的に現していると思います。政治家は票田である政治連盟を持つ業界団体のみを優遇し、行政はおかしなことだと思っていても見て見ぬふりを続けて天下り先の維持に力を注ぎ、既得権益を持つ業界団体はシェアが全く低いにもかかわらず自分たちの損得しか考えていない・・・それに挑戦しているのが、当NPOです。
これは大変孤独な戦いですが、必死で頑張るしかありません。皆様のご意見を拝聴できれば幸いです。
主な出来事の年表
2014年3月 NPO法人クリーニング・カスタマーズサポート発足
2014年5月 クリーニング業界大手に労働問題発生、残業代未払い、経費の自腹支払い、賠償金従業員負担などクリーニング業界のひどい労働環境が暴かれる。日本労働評議会と連携が始まる。雑誌FACTAがその実態を記事化。
2014年8月 読売新聞が2面「顔」で当NPO代表紹介。世界最大の発行部数を誇る読売新聞に紹介されたのにもかかわらず、零細業者たちからの批判がある。
2015年4月 クリーニング業界にはびこる怪しい加工について言及、「花粉症に効果がある」と謳う「花粉防止加工」、汗抜き用洗剤を使用していないのに「汗抜き加工」などを標榜して追加料金を取る業者を追求する。
2016年5月 関東の大手業者での労働問題が寄せられる。週末は夜中の2時頃まで働いているのに残業は「定額」。それによる「洗わないで返す」というクリーニング業界の究極の手抜き手法が暴かれる。
2017年5月 テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」に初登場。業界の低価格競争に言及、意味もなくシミ抜き料金をとる手法を批判、反響が広がる。
(この頃からクリーニング業界の隠蔽体質が始まる)
2017年11月 業界大手が行っていた保管クリーニングで、10月まで洗っていない事実が内部告発にて判明。朝日新聞がその実態を記事化する。朝日が夕刊トップ記事で紹介したのに、クリーニング業界は全く無反応(多くの業者がこれと同様なやり方に手を染めているため)
2018年3月 共同通信社が当NPOの活動等を紹介、全国の地方紙に記事として載る。
2018年3月 関東のクリーニング会社オーナーから相談。会社が品質を重視せず、苦情だらけになっている現状を聞き、労働組合を結成。同社は全く別のオーナーからも相談あり。
2018年7月 読売新聞がクリーニング業界の建築基準法違反問題を取り上げ、10年も改善しない違法操業のクリーニング業者を糾弾する。
2018年7月 映画「万引き家族」で、クリーニングが「底辺の社会」として描かれていると業界で話題になる。当NPOではロケ地となったクリーニング工場を訪ね事情を聞き取り。こういった状況を週刊新潮ウェブ版が扱う。
2018年8月 朝日新聞が2面「ひと」欄で当NPO代表紹介。この頃になるとクリーニング業界からの反発はなくなっている。
2019年4月 日本で働く外国人の労働組合から相談あり。クリーニング工場で両手をプレス機に挟まれ大やけどを負ったベトナム人の人権問題に発展。
2020年3月 大手クリーニング会社の店舗オーナーという方から相談あり。会社にすすめられてオーナーになったが、夜中まで働く割に収入が少ない。
2021年5月 「ウェザー・ニュース」から、家庭でのクリーニングに関する質問あり。回答したものをまとめた文章がウェブにて掲載される。以降何度も同様な掲載が成される。
2021年7月 一般の方から、近隣のクリーニング工場からのパーク被害に関する相談あり。行政などと接し、1年以上この問題に取り組む。
2023年6月 以前から接点のあった参議院議員の方が厚生労働省担当者を呼び保管クリーニングの実態を聞き取り。厚生労働省担当者は、多くの業者が取り入れている保管クリーニング事業では、すぐに洗わず後で洗うことを把握している上で、「それはやむを得ない」と仰天の回答をしたことを報告。
2023年9月 AERAウェブ版が保管クリーニングがすぐに洗わないと報道。保管クリーニング大手がクリーニング3社に10月後半頃下請けを受注したが、大量に運ばれて着た衣類はカビだらけのものもあったと話し、保管クリーニングの実態を吐露。