広がるクリーニングのオーナー制トラブル
オーナーを解放する方法は?
オーナーが労働組合を結成したことを報じる朝日新聞記事
1、押し寄せるオーナー制の問題
「オーナーだが、毎月、休みが全くない」
「会社を辞めたいが、オーナー契約がまだ2年残っている」
「収入が全然ない」
最近、当NPOに全国のクリーニング・オーナーから救済の連絡がたくさん入るようになった。クリーニング業界は労働問題が起こりやすいが、特に最近はオーナーからの相談が顕著になっている。
クリーニングのオーナー制は近年、各クリーニング業者が取り入れ、どこでも行うようになった。クリーニング会社は一つの工場があると、その周囲に10~15軒程度の店舗(受付だけを行う店)を運営し、工場とは配送車が品を運ぶシステムが一般的になっている。各店舗を担当する店員は常時一人か二人で行っており、そのような店員がオーナーであることが多い。
しかし、そのオーナー達が待遇の悪さや休みの少なさに悲鳴を上げている。背景には何があるか、詳しく述べてみたい。
日本に10万軒近くあるクリーニング店。受付している店員がオーナーであることが多くなった。
2、クリーニングのオーナー制とは
クリーニング業界におけるオーナー制に関しては、もともとは店員にやる気を出させるためのシステムだった。がんばって売上を上げれば、そのぶん収入も良くなる仕組みであり、この商売が好きな人、収入を上げたい人などがオーナーになった。
会社側はオーナーの店舗が独自のやり方にならないよう、月に数日は会社から派遣された店員が受付を行い、問題の発生を防いでいる。通常のクリーニング業者では、この様な方法でオーナー制が行われているのが普通だ。クリーニング店は、余裕のある店では客を待つ時間もあり、オーナーも自由時間がある。健全に運営されているオーナー店も多い。
しかし、オーナー制はいつの間にか、労働環境が良くないクリーニング業者の「労働基準法逃れ」の手段になってしまい、店舗はオーナー任せの状態となった。大手クリーニング業者の最大の悩みは人手不足。労働者は労働基準法によって守られているが、オーナーになれば法的には「取引先」になる。この方法で店員を長く働かせることができるわけだ。
当初、優良な店員が勤務する会社の勧めでオーナーになるパターンが多かったが、最近では最初から高収入を宣伝して求人サイトにオーナーを募集するやり方が多くなった。キャリアの短い人がいきなりオーナーになることで、トラブルはますます増えている。
近年、コンビニでも同様の問題が浮上している。コンビニとクリーニングの違いは、コンビニは夫婦でないと契約できないが、クリーニングは個人で契約できること、コンビニは寡占化が進みどこも契約内容がそう変わらないが、クリーニングは各業者によって内容がかなり違うこと、またブラックな業者ほど人手不足に悩んでいるので、契約内容がかなりひどいこと、マニュアルなどがきちんとしていないため、十分な経験なく仕事を始める場合があること、コンビニには数十年の歴史があるが、クリーニングはそれほど歴史がなく、会社側もあまり経験がない所があることだ。コンビニも大変だが、クリーニングの方が問題は多いだろう。
3、オーナー制はクリーニングの「裏ノウハウ」
クリーニング業界には「裏ノウハウ」がある。「裏ノウハウ」とは、違法であったり、消費者には伝えずに行われるノウハウのことである。この業界では「これは儲かる」となると、それが良いことでも悪いことでもあっと言う間に業界中に伝わり、多くの業者がそれを行う習性がある。そして、業界の中だけの「秘密」にする。このオーナー制も、これだけ多くのオーナーが困っているのだから、「良いこと」であるわけがないが、悪いことでも利益につながるのなら、「裏ノウハウ」として業界中がそれに手を染めるのである。
クリーニングの裏ノウハウにはこの様なものがある。
○建築基準法違反---人が集まる住宅地、商業地に店舗兼工場をオープンすれば利益性が高い。しかし、建築基準法では業界で誰もが使用する石油系溶剤は建築基準法の縛りで使用できない。それではと、行政を欺いて違法操業する業者が続出した。2009年7月に新聞で違反業者が報道されるまで、この裏ノウハウは活発に利用された。
クリーニングの違法操業を始めて報じた2009年7月11日の朝日新聞記事。この報道に全国の違法操業業者が動揺した。
〇不自然な追加料金―――クリーニングは低価格競争が続いているので、追加料金を取る手法が次から次へと登場する。「ワイシャツ90円」と店頭に表示し、持って行くと「それは真っ白だけ」と追加料金を請求されたり、「花粉防止加工」のように効果がはっきりと証明できない加工を勧めたり、店員が店頭でシミを見つけるといきなりしみ抜き料金を提供する行為である。これらは景品表示法、消費者契約法などに抵触するものが多く、当NPOなどが指摘するとあっという間に消えたりする。2017年に「ビートたけしのTVタックル」に当方が出て、「最初からしみ抜き料金を取ることの矛盾」を説明すると、業界全体が動揺した。
○保管クリーニング---「あなたの衣料品を次のシーズンまで保管します」という保管クリーニングは現在でも行われている。クリーニング業者はお客様の衣料品を春先に預かり、10月頃まで約半年間「保管」するとしているが、実際にクリーニング作業するのは7月以降という業者が多い。4,5月はクリーニングの繁忙期に当たるので、作業を平準化する裏ノウハウとして広まった。衣料品は2,3ヶ月放置されるので、しみや汚れが落ちにくくなる。2017年11月に報道された以降も、数ヶ月放置する業者は多い。
2017年11月8日、朝日新聞は保管クリーニングの仕組みを夕刊トップで摘発した。消費者は皆、洗ってから保管すると思いこんでいる。
○スニーカークリーニング---最近、スニーカーをクリーニングしますと宣伝する業者が激増、低迷するクリーニング需要を挽回するため、アイテムを増やそうという試みである。しかし、一部の業者はワイシャツや一般衣料品を洗う洗濯機でスニーカーまで洗っている。法律に触れるとかではないが、それを知ったら客はどう思うだろうか?客に実態を知らせない稼ぎ方という点では裏ノウハウの一つに数えられるだろう。
これらは、一般消費者がほとんど知らないうちに、あっと言う間に業界全体に広がっていく。クリーニングは低価格競争が続いて余裕がなく、さらにはモラルに乏しい部分がある。激しい競争の中で生き残るには、悪いことをするしかないと「裏ノウハウ」を取り入れる業者はいる。また、クリーニング業者の多くは他の業種の人びととの接点がほとんどなく、業界内だけの交流がほとんどの人が多い。「みんなやってるから」という理由でこの様な行為に手を染める。
オーナー制にすれば、労働基準法は関係がなくなる・・・。人手不足が解消される。多くの労働問題を抱えるクリーニング業者が手を出さないはずはない。クリーニング業界に広がったのは、こんな理由がある。
4、苦しむオーナー達
当NPOには各地のクリーニング・オーナーから相談が持ち込まれる。来るのはやはり労働環境に問題を抱えるクリーニング業者のオーナーからばかりである。
最も多いのは、やはり「休日がない、休めない」という悩みである。会社は店舗運営をオーナーに任せっきりにして、休みたいなら自分で人を雇えという。しかし、問題の多い会社にはそうそう人が来てくれるものではない。スーパーのテナント店などになれば年中無休の契約により、一層大変である。
また、労働者ではない、という考えなのか、紛失品などを賠償させられるという問題が意外に多い。大手のクリーニング会社では、工場に複数の店舗の品が持ち込まれるため、紛失事故が発生することがある。低価格業者や不正な業者なら一層トラブルは多くなる。そういった紛失品をオーナーが弁償させられている。紛失は必ずしも店員が悪いのではなく、工場にも責任がある。監理の悪い会社では店舗と工場で責任のなすり合いが多発する。
オーナーに限らず、品質の悪いクリーニング業者は、クレーム処理を店員にさせるという所がある。クレームは会社全体の問題なので、本来は上司が対応するのが普通だが、ブラック企業は店員に責任を押し付ける。ブラックな会社は品質が悪く、苦情がやたら多い。これで年中無休では、オーナーは地獄である。
低価格の業者は品をたくさん集めなければならないため、システムを単純にして店員の負担を減らすのが一般的である。現実にそういう会社が多い。ところが、ブラックな会社は店員に猛烈な業務を押し付ける。最初からしみ抜き料金を取り、加工製品がたくさんあり、顧客へのプレゼント品が一年中あって棚卸しまでさせられ、店舗ディスプレイを一年中させられ、変な業者のグループの勉強会があれば一週間前から掃除をさせられる。しみ抜き料金や加工製品の獲得を競わされ、取れないと怒られる。突拍子もない業務を強いられているのだ。
そして、オーナーを苦しめるのは「辞められない」という苦しみである。人手不足のクリーニング会社は店員をできるだけ長くつなぎ止めておきたいため、契約期間を設け、契約期間中に解約すると違約金を厳しくする。「あと3年も逃げられないのか」という苦しみがオーナーを追い詰めていく。そんなことなら、契約しなければいいじゃないかと思われるかも知れないが、契約する側は「高収入が得られる」など甘い言葉しかいわない。オーナーは多くが家庭の主婦やシングルマザー。契約などに慣れていない人々が、大変な目に遭わされているのだ。
5,解決方法は何か
全国で多くの人々が悩んでいるだけに、解決方法を考えたい。
通常の業界であれば、深刻な問題は業界組織などに働きかけることが考えられる。クリーニングを管轄する厚生労働省が唯一認可しているのが全ク連(全国クリーニング生活衛生同業組合連合会)という団体。しかしここは利権への執着やエゴから大手業者を追い出してきた経緯があり、個人経営の業者ばかりが幹部を務める。理事長に話しても、「ワシは人を雇ってないから関係ないんじゃ」と言われるばかりだ。零細業者が業界の代表なので、労働問題が多くなるのだ。
クリーニングには業界紙が三紙あり、うち二紙は毎月三度発行されている。こういう所に問題を投げかけることもできるが、何しろオーナー制をやっている業者が商売の相手なので、悪くは書かれない。すなわち、業界に自浄作用は全く働かないのである。苦しんでいるオーナーの方々には、そういう業界なんですよという他はない。
法律や行政はどうだろうか?困ったオーナー達が労働基準監督署を訪ねると、「請負業務は労働者ではありません」などと言われるそうである。弁護士に聞いてもあまりいい返事をされないという話も聞いている。
しかし、弁護士の中には、会社側が賃貸した店舗に営業時間も価格も決め、会社側の制約があまりにも多いので、労働者と解釈できるという人がいる。実際、労働者と何も変わらない。しかし紛争を解決するには裁判を行うしかなく、個人でするにはかなり抵抗があるかも知れない。
「取引先」と解釈されても道はある。独占禁止法の「優越的地位の濫用」では、強い立場のものが弱い立場の相手に対し、地位を利用して正常な商慣習に照らし不利益を与える行為を禁止している。全く休ませない契約など優越的地位の濫用に違いはないが、これにはやはり裁判が前提となり、個人にはハードルが高い(労働組合に入るという手もある)。
しかし仮に、契約を「途中解約します」といって店に出なくなったらどうなるだろうか?一般的な考え方では、会社側はオーナーに賠償金を要求するだろうが、払わないなら裁判ということになる。ただ、オーナー個人に関して裁判までするだろうか?裁判になれば会社の不当な扱いを追求されるリスクもあるので、意外とここが抜け道かも知れない。
このような中、一部のクリーニング・オーナーは労働組合を結成、会社側と組合として交渉するようになった。これは新聞数社も取り上げ、話題となっている。
http://www.labornetjp.org/news/2019/0128rohyo
このように、労働組合も有効な手段である。また、クリーニング・オーナーは各地にいるので、お互いに連絡を取り合い、お互いの条件ややり方の情報共有を行うようにするのも今後への大きな前進となる。全国のクリーニング・オーナーが連携し、強いチームになることがオーナー達を守る大きな力となる。
当NPOはクリーニング業界の健全化を目指す団体だが、こちらの知る限り、オーナーを苦しめているような会社は他の部分でもあちこち問題を抱えている場合が多いので、そういうことを攻めれば会社側も強気ではいられなくなり、ひどすぎる条件から解放される近道になるだろう。
このようなことから、困っているクリーニング・オーナーがいたら、ぜひこちらにご連絡をいただきたい。できるだけ多くのオーナーが集まれば大きな力となり、この問題を解決できるだろう。会社側に対し、オーナー集団として交渉できるようになれば、プレッシャーを与えることができるだろう。
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