また多くなってきたクリーニングの労働問題
女性パートを夜中の1時、2時まで働かせる会社
新型コロナウィルスの流行が次第に落ち着いてきて、クリーニングも賑わいが戻ってきました。今年4月にはコロナ以前の売り上げに戻った、などという人もいます。
しかし忙しくなってくると、またクリーニング業界の最大の課題である劣悪な労働環境の問題が持ち上がってきます。今年(2024年)4月以降、「残業代が出ない」、「夜中まで働かされた」などの安売り業者を中心としたクリーニング従業員からの労働問題が以前のように寄せられています。
当NPOに寄せられる相談の大半は、クリーニング会社で働く労働者からの労働相談です。これはクリーニング業界で最も深刻な問題といえます。
寄せられた労働問題
今年に入って寄せられた相談には、以下のようなものがあります
○夜中の1,2時まで仕事が続く
クリーニングは繁忙期と閑散期の差が大きい商売ですが、繁忙期になると残業することが多くなります。しかし、夜中の1時、2時まで働いていたら、体を壊してしまいます。普通の経営者であれば、このような実態がわかれば何らかの対策を打つでしょう。このようなことが放置されるのは、やはり経営陣のあり方が異常で、「儲かれば従業員などどうなってもいい」と屈折した考えを持っているからでしょう。コロナ以前にも「過労死ライン越え」を当たり前にしている会社が問題視されましたが、また元に戻ったようです。
さすがに夜中の1時、2時まで働くというのは尋常ではなく、いくらクリーニング業界の労働環境が悪いからといってそうそうあるものではありません。会社に残るという選択肢はおかしいでしょう。
○固定残業制で本来の残業代支払われず
これは以前から当業界には多い問題ですが、残業代を固定にし、正確な残業代を支払わない会社があります。払わない理由について、「他の工場では時間内にできている」といいます(もちろんウソです)。固定残業制は違法ではありませんが、実際の在位業時間より少なく払うのは違法です。これは証拠を残しておく(写真を撮る、証人を増やす)などするといいでしょう。
○連絡にやたらとLINEを利用
これは新しい問題です。クリーニングの入荷量は増減し、生産計画を立てるのが難しいので、なるべく賃金を抑えるため、労働者の労働時間を削るのです。前日夜、10時頃明日の出勤時間を指定するなど、異常な行為が行われているようです。まさにLINEの悪用です。
○給与明細がスマホに送られてくる
これも新しい問題です。給与明細をスマホのディスプレイにすること自体は違法ではありませんが、残業代をなるべく払いたくない安売りブラック企業は、給与明細が紙に印字すると記録が残るため、このような方法をとるのかも知れません。出ている数字が事実かどうかわかりません。ソフトを開発するのがクリーニング会社か、それと近しい開発会社であれば、ごまかしに荷担することがないとはいえません。こういう場合は明細の写真を撮るなどして記録に残しましょう。
このほか、以前より多いパワハラの問題も寄せられるようになりました。
クリーニングの労働問題の原因
○工場減少で作業が追いつかない
新型コロナウィルスの流行で入荷がダウンしたとき、多くの大手クリーニング業者は生産数の減少に伴って工場を減らすなどし、経費節減を図りました。たとえば、ある地域に6つの工場を稼働している会社はコロナで入荷激減のため工場を3つに減らしました。これ自体はおかしくないのですが、経費節減のため過剰に工場閉鎖をした業者は今年4月のように入荷が増えると、生産が追いつかなくなるのです。そういう事情はあっても、きちんと生産計画を立てない業者は労働者に過剰な負担をかけてしまい、それは会社の責任です。夜中の1時まで従業員に働かせる会社はどう考えても異常です。
○古い法律のせいで政治、行政が動かない
クリーニング業など日本の生活衛生サービス業は昭和32年設立の「生衛法」という法律で管理されています。昭和32年にはどのサービス業にもほとんど大手業者が存在せず、そのときの状況に合わせて法律が作られました。
現在、日本中どこでもクリーニング市場は大手業者の寡占状態であり、生活衛生同業組合など蚊帳の外です。それでも生活衛生同業組合は政治連盟があるため、政治家はそちらしか見ず、行政も天下り先維持のためそれに従います。このためブラック企業のような問題が放置されるのです。
なんとか生活衛生同業組合に労働問題などを取り上げてもらうよう当NPOなどが頼んでも、生活衛生同業組合は零細業者しかいないので労働問題がわからず、彼ら自身が建築基準法違反だらけなので触れようもしません。したがってサービス業の労働問題は放置されるのです。
これはクリーニングに限らず、日本の劣化そのものです。
○安売り至上主義が続いている
ロシアがウクライナに戦争を仕掛けた等の影響で原油価格をはじめあらゆる資材の価格が高騰しています。また、賃上げの推進もあり、クリーニング業者にとっては二重の負担がかかっています。
ところが、街のクリーニング店の看板を見ると相変わらず「ワイシャツ100円」など低価格の店が多くあります。
クリーニング業界では半世紀以上前から価格競争が続き、「安くしなければ、客が離れる」と盲進している業者が数多くいます。資材や人件費高騰が価格に反映されないため、それが働く労働者に降りかかり、ただでさえ悪い労働環境がますます悪くなっているのです。安売り競争を盛んに行う業者ほど、労働者のケアをまるで考えていない人が多い印象もあります。コロナのときにはあまり目立ちませんでしたが、また入荷が増えると同じような労働基準法違反が多くなってくるのです。
迷わずご相談下さい
クリーニングの労働問題に関しては、文中にあるように政治、行政がなかなか動いてくれず、大変ではありますが、相談件数が増えれば周囲を動かす大きな力となります。法律に触れていれば解決は難しくありません。小さなことでもご相談下さい。