クリーニング業界では、業界以外の一般マスコミから問題を指摘され、大きな話題となることがたまに起こる。ここに挙げたのはその代表的な事例。
1,「洗ってないクリーニング」問題(1999年)
1999年、婦人向け月刊誌が「ドライマークも自分でクリーニングが正解」という特集記事を組んだ。この頃から流行し始めた「ドライマーク用洗剤」を紹介する記事だったが、クリーニング業者に対する不満をいくつか述べるコーナーがあり、その中の一つに、「ある大手クリーニングチェーン店は、預かり品を汚れているものと汚れていないものに分け、汚れていないものは乾燥機で回しただけで包装して出す」なる文章が載った。「洗っていないクリーニング」があるというのである。
クリーニング業界団体はこれに抗議、出版社を訪ね、事情をうかがった。
出版社によると、そういう業者(洗っていない業者)は間違いなく存在するとのことだったが、守秘義務があり、業者名が明かされることはなかった。
洗ってないクリーニング業者がいるとすれば、これ以上の問題はない。著しくモラルに欠ける行為であり、クリーニング業界へのイメージダウンは避けられない報道でもあったが、厚生労働省認可のクリーニング団体が動かなかったことは、全く意外だった。
後日、「あの業者は洗ってないことがばれて保健所から操業停止を食らった」、「あの業者から転職した従業員が、繁忙期に洗わずに出そうとした」など、実際にこの「究極の手抜き」を行っていたらしい業者の話題が囁かれ、雑誌に書かれるまでは、結構行われていた可能性も指摘された。クリーニング業界の「裏ノウハウ」として格安クリーニング業者の間に浸透していた可能性もあるが、これだけの手抜きとなると、素人でもわかるため、今日ではこの手法を行う業者はいなくなったものと思われる。
2,100円クリーニング事件(2002年)
2001年、業界第二位という大手クリーニング業者が、独自の店舗を開発、クリーニング品を100円で受け付けるという「100円クリーニング」事業を開始した。100円クリーニングと言ってもワイシャツは130円、一般品も100円では預かるが、店員がことごとく、「100円では汚れが落ちないので・・・」といって同社が独自に開発した「オゾン&アクア加工」なる加工を勧め、追加を取っていく仕組みだった。同社はこの100円システムをノウハウとして販売を開始、大規模な見学会などを開いて積極的に同業者に見学させた。
翌2002年6月、同社から内部告発者が現れ、大手新聞社の週刊誌がこれを報じた。これが記事となり、またしても業界は大騒ぎとなった。
今回は全ク連が機関誌にこの問題を大きく取り上げたほか、この会社が標榜していた「オゾンクリーニング」に関して実験結果を公表、効果無しとした。
摘発されたこの会社は週刊誌を相手取って訴訟を起こしたが、結局週刊誌側の勝訴という結果となった。
3,建築基準法問題その1(2009年)
2009年はクリーニング業界にとって激動の年だった(普通に法律を守っている業者は別になんともないが)。7月11日、業界三位という大手業者が建てたクリーニング工場が、建築基準法に違反していることで摘発された。この後、各都道府県の行政が動き、同社の各工場を調査した結果、24カ所もの違反工場があることがわかった。紙面には、同社取締役の「認識不足だった。悪意はない」というコメントが載せられているが、これはこの後覆った。
4,建築基準法問題その2(2009年)
最初の報道から一週間後の7月18日、朝日新聞はこの問題の続報を記載、前回の取締役発言「認識不足だった、悪意はない」という言葉とは違い、実際には会社ぐるみで違法行為を行っていたことが暴露された。
同社取締役は7月11日の第一報後、故意の違法行為を否定していたが、敏腕記者の追究により、最後には白状した。
記事によれば、「今回のすべての問題に対し、関係者にお詫びしたい」などとしているが、翌年3月にTBSのニュース番組で別の工場の建築基準法違反を指摘されたとき、テレビのインタビューに対し「(建築基準法の)違反という認識はなかった」などと発言している。
5,建築基準法問題その3(2009年)
クリーニングの建築基準法問題は、一社の摘発にとどまらなかった。先に摘発された会社と同じグループに属する会社も、やはり建築基準法違反を行っており、この年の年末に朝日新聞によって摘発された。業界二位と三位の組織的な法律違反は行政を動かし、国土交通省は翌年より全クリーニング゙業者を調査することになった。
このとき、同社社長は記者会見を行い、その中で「業界の85%は違反だ」と言い放った。上場企業社長の言葉とは思えない発言だが、実際に業界に違反が多いのは事実だった。
新聞に大きく取り上げられた二社に関しては、全く同じ方法で行政を欺いており、悪意性は免れないが、行政が縦割りなどの弊害でこの問題を数十年に渡って放置してきたことも事実であり、悪意のない零細業者も結果的には違反状態になるところが多く、「もう商売が出来なくなる」と狼狽した業者も多かった。
6、村井議員の口利き疑惑(2010年)
業界二位、三位の摘発によって騒然となったクリーニング業界だが、翌2010年2月24日、国土交通委員会において、民主党の村井宗明衆議院議員(現在は落選)が、「クリーニング屋さんがかわいそうだ、是正措置を」と発言、これにより、国土交通省の調査が急激に軟化した。それまでは、「悪質な違反は即操業停止」ともいわれたので、行政の豹変ぶりには驚かされた。これにより、違法状態で操業している多くのクリーニング業者達は安堵したが、その中には、故意に違反を重ねていた、摘発された二社と同じような業者も混じっている。
しかしこの村井議員に関して、彼の後援会長となっているのが、北陸地方で一番大きなクリーニング会社の社長であることが判明、しかも、その業者の工場に違反工場が多かったことにより、村井議員は頼まれてあのような発言をしたのでは・・・と「口利き疑惑」を疑われ、結局この様な記事が登場した。同様な内容で別の雑誌も村井議員の問題を記事化している。
その後、民主党の人気は下落、村井議員も2012年末の衆議院総選挙で落選したが、村井議員の発言などが功を奏したのかどうかわからないが、行政の動きは鈍化、現在も各地でクリーニング工場が悪意のあるなしを問わず、違法状態で操業している。
7,震災復興仮設工場疑惑(2012年)
2011年の東日本大震災は東北地方に激しい被害を及ぼしたが、その復興策の一つとして、厚生労働省は被害の激しかった地域にクリーニング仮設工場を建設し、被害者の救済を行う試みを発表した。これはまずクリーニング業界紙で報道された。発表したのは全ク連の事務局だった。
そこで、全ク連記者発表に行き、このことを聞いたが、発表した事務局員は「まだ何も決まっていない」とし、この問題について一言も触れなかった。ところが、数日後に岩手県大船渡市に行くと、岩手県組合理事長の工場が既に「仮設工場」と決まっていて、事務局員の話は全くのウソだったことが判明した。
結局、「被害者のため」の予算は全ク連が独占し、岩手県理事長の工場と、九戸郡の業者にソルカンドライ(温室効果ガス)の機械を搬入しただけという杜撰きわまりない結果に終わったが、週刊ポストはそれを記事化、それがこの文章である。
週刊ポストの記事が出た後、これについて全ク連から説明があり、この事務局員は「組合に限らず、クリーニング業界に広く意見を求めたが」などとまたしても根も葉もないウソの言い訳を語った。実際にはわざわざ聞きに行っても答えなかったのだから、とんでもない話である。
クリーニングの業界問題は一部の不届きな業者ばかりが起こすものではなく、業界の団体までもがこのような問題を抱えている。これがこの業界の深い病巣を語っているようにも思える。クリーニング業界に自浄作用はなく、このように業界外の一般マスコミに指摘される以外にはないことを感じさせる。
※この問題に関しては、こちらのサイトに詳しく記載しています。
http://www.cercle.co.jp/blogs/?p=174
8,トッピング商法(2013年)
2013年11月、経済誌がクリーニング業界で心境著しい会社についての記事を掲載、格安クリーニング業者の問題点を追究している。なお、この会社は先の建築基準法違反で摘発された会社。
記事では冒頭、同社の発展ぶりを取り上げ、賞賛する内容にも思えるが、すぐに建築基準法違反問題を提起、その後、行政指導され、「ソルカンドライ」という溶剤に変更を余儀なくされた後も、ソルカンドライが温室効果ガスであることを触れず、「環境にやさしい」と虚偽宣伝を続けたことを指摘している。
さらに、同社が店舗で顧客から次々と追加料金を徴収していることを「トッピング商法」とし、いくつかの加工に関しては、その効果に疑問を示している。また、操業他社が通常料金の範囲内で行うワイシャツのエリ汚れ落としなどに追加料金を徴収することも問題にし、この様な追加料金が多数ある理由について、スーパーマーケットなどテナントの存在があることも深読みしている。
記事は同社の厳しい労働環境も指摘、特に、クリーニング業界の指標である「人時生産率」について、他社では考えられない目標設定が成されていることを糾弾、「人時生産率は通常20~25程度であり、40以上は考えられない」という業界関係者のコメントを掲載している。